徳島県は人口72万人。徳島県立中央病院は、徳島大学病院と隣接・連携した救命救急センターで、徳島県内では、徳島赤十字病院とともに救急医療の拠点病院となっています。救急科専門研修プログラム基幹病院であり、専攻医も毎年1〜2名程度増えています。地域の救急医療を担う若手医師が集まる土台づくりについて、徳島県立中央病院救命救急センター副センター長川下 陽一郎先生にお伺いしました。

Interview:川下 陽一郎

徳島県立中央病院外科副部長/救命救急センター副センター長
2004年3月自治医科大学卒業。徳島県立中央病院にて初期研修を行い、徳島県内のへき地中核病院やへき地診療所で勤務。2010年4月徳島大学大学院医科学教育部消化器・移植外科学分野に社会人大学院生として入学し外科学の研鑽を積む。その後、引き続き徳島県内のへき地医療へ従事しつつ、2012年12月より徳島県ドクターヘリ事業へフライトドクターとして参画。2013年4月より徳島県立中央病院外科に所属。2017年8月より同院救命救急センター副センター長を勤める。同年11月医学博士を取得。

徳島県立中央病院の特徴

徳島県立中央病院の概要について教えてください。

 病院全体としては病床数460床、定期手術4,500件・緊急手術1,200件を行っています。救急外来の受け入れは、年間で救急車5000台・救急外来受診者16,000人程度です。初期研修医が26〜30名在籍しており、初期研修医の教育は病院の重要な使命です。救急外来の管理体制は平日日中が救急担当医・夜間休日は各科当直です。救急科スタッフ4名、専攻医3名、救急外来看護師26名(認定看護師1名)のチームとなっています。
 2012年10月よりドクターヘリ基地病院となっており、年間出動件数は約460件です。徳島県は特に東西に長く山間部地域の割合が高いため、ドクターヘリは重要な役割を担っています。フライトドクターは救急、集中治療、外科、消化器内科を専門分野とする計6名の医師で担当しています。県の外傷診療の拠点として外傷診療のアクティビティは高く、Primary Surveyとして救急処置室での蘇生的開胸/開腹の実施、ドクターヘリから手術室への直接搬入、Hybrid ER方式でDSA-CT室を活用した診療を積極的に行っています。Quality indicatorとして、ISS>16の重症外傷でERから手術もしくはTAE開始まで平均80分を実現しています。

「Be Central」というスローガン

ー救急外来の中心メンバーがスローガンを大切にされていると伺いました。
「徳島県の救急医療の中心となる」「救急医療に携わる全ての人に安心を提供する」それが私たちのビジョンです。県内の皆さんに心から”徳島の中央病院”と実感していただけることを目標にしています。合言葉は「Be Central」そして「Tokushima ER」です。
 実は今、4人いる救急スタッフ医師に関していえば、同じ教育を受けて育ったわけではなく、それぞれの異なるキャリアを歩んできた医師たちで構成されています。僕自身は「プライマリケアが実践できる外科医」を目指したところから始まっているので、外科系総合診療医です。他には、徳島大学の総合診療部出身で、呼吸器内科の専門性を持った内科医から救急医にコンバートした女医さんや、研修医のときに外傷患者を救えなかったことをきっかけにして外科に進んだ外科系救急医と、災害医療を軸にしているうちのトップの救急医。良い出会いに恵まれた素晴らしいチームと感じています。
 同じ釜の飯を食った仲間ではないけど、地域の役に立ちたいって思いだけはみんな目線を合わせて、組織と世界観を作っていきました。そういう中から本当の意味で僕たちは徳島県の救急医療の中心となろうということで「Be Central」というスローガンが生まれたんです。
 継続的な地域の救急医療の提供のためには、教育はとても大切ですから、力を入れています。

若手医師教育の取り組み

ーそのようなスローガンは若手医師教育にも反映されているのでしょうか。
 スローガンを体現する教育のキーポイントとしては、①各自の「どんな医師になりたいか」という将来像に対する想いを共有することと、②時代の変化に応じて進化していくERであり続ける努力をすること、の2点を大切にしています。

将来像に対する想いの共有
 共通の世界観として、「目の前の困った人たちに手を差し伸べて、話を聞いて、その人のそばに座れる医療人を作れるERでありたい」ということを伝えています。救急専門医が増えなくても、救急診療を経験することで、全人的に診れる医師の仲間が増えたら、それでいいと思っているんですよね。当院の専攻医のプログラムはかなり他科研修を重要視していて、専攻医には「5年後の自分がどんなプロフェッショナルになっていたいか」をまず聞きます。手術したいのであれば外科、内視鏡やりたいなら内視鏡センターに、一定期間ベッタリつけます。自分のなりたい医師像に近づけるようにオーダーメイドの教育を目指しています。

ー時代の変化に応じて進化していく努力
 変わらない医療者としての想いを育むことと同時に、変わっていく時代の流れに順応していくことはこれからの未来を担う医師にとってとても重要です。医学の学びを深めるためにテクノロジーも積極的に活用してくことが、これからの若手医師を育む救急外来に求められる形だと思っています。

ITリテラシーの高いチームの育成

ーテクノロジーと教育が具体的にどのように関係していくのでしょうか?
 教育目標の中で「ITリテラシーの高いプロフェッショナルを育てる」というのを重点項目として挙げています。クラウド情報共有を用いたペーパーレス抄読会をやったり、NEXT Stage ER(※1)を導入して、臨床現場のデータ整理、情報共有をしています。身近なところで、ITを常に利用して生産性を上げられるようにしています。

ーICT活用の取り組みの中で、特に利点に感じていることがありましたら教えてください。
 NEXT Stage ERを使って記録業務をしていると、リアルタイムに診療データの整理ができるのは魅力です。今までは電子カルテしかなかったので、データは後でカルテを順に開いて収集するしかなかったのでこれは大きな違いです。手技の実施、担当医、疾患種別などを自由に整理・検索できるので、魅力的な研究アイデアも閃きやすいです。臨床をしている中で、構造化されたデータとして患者さんの状態を整理していくという考え方自体がとても教育的だと思います。この画面にチェック項目をつけたらこういう研究もできるかもしれないとアイデアを練る作業は、これまでの救急外来には存在しなかったものですが、若手医師世代にはこういう考え方が当たり前になってくると思います。彼らがワクワクするERを作りたいですね。

 救急チームの力を上げるという意味では、看護師の力も重要です。業務の中でデータが蓄積されていくので、看護師の仕事がきちんと数字やグラフで表され、見える化されるため、仕事内容の価値を再認識できると思います。救急外来の看護師は本当に大変でありながら素晴らしいことを日々実践しているので、それが埋もれてしまったり、単なる労働で終わってしまわないようにしていきたいです。
 救急のリアルワールドの中では医師の目線に限らず、看護師の目線や、技師の目線から見た方が、すごく興味深いアイディアや、臨床研究のデザインの閃きが、山のように生まれると思っています。日々の業務をこなしながら、自然にデータが見える化していくことを経験すると、それがチームメンバーの教育にも自然とつながると信じています。

タブレットやPCでリアルタイムにER内の情報確認と記録ができる運用にしている

地域の救急医療の面白さ

ー地方×救急は、医師のリクルーティングが難しい領域だと思います。地域の救急医療の魅力について教えてください。
 地域の救急医療の面白さは、「混沌としている」ことだと思っています。混沌としているからこそ、介入・改善の余地がたくさんあります。三次だけ診るとかではなくて、まさに地域そのものを診ていく必要があります。「Be Central」「Tokushima ER」という言葉が示すように、徳島県立中央病院で救急診療をやるということは、徳島県を診ているということに他なりません。都市型の救命救急センターとは異なり、地方の方がドクターヘリやドクターカーも本領を発揮します。地域の救急医療の醍醐味は、どんな患者さんでも診られること、地域全体を俯瞰していけることです。

ー地域で救急医を目指すことに不安を覚える若手医師にメッセージはありますか?
 自分が外科出身でERに来たので、昔はまずは何か極めることが先だと思っていました。救急医っていうのは広く診れるようになるけど、何かを極めることができないのではないかという不安はありますよね。10年前は救急外来でコアな専門的なことまで踏み込んで教える土壌がありませんでしたが、現在は体制が整ってきています。
 ER型救急にとどまらず、外科、IVR、災害医療、外傷診療とか他科研修も含めて学んでいくと魅力は尽きないと思います。一度救急医療全般のことを学んで、他の科にコンバートしても良いわけですし。自分の専門領域以外は自分の患者さんではないというスタンスではなく、地域の救急や総合診療を通じて、混沌とした医療を経験すると、真の全人的医療を実現できる医師が育つと思っています

ー新しいテクノロジーはどんどん取り入れていく一方、「どんな医師であるべきか」という普遍的な問いも忘れずに教育されているのが印象的でした。貴重なお話をありがとうございました。

※1 NEXT Stage ERはTXP Medical社の救急医療に特化した患者情報記録・管理システムです。多忙な臨床現場における効率的な①患者情報記録、②スタッフ間の情報共有、③研究用データ蓄積を同時に実現します。 < 3分説明動画 >