島根大学は、2016年に医学部では全国初となる「Acute Care Surgery講座」及び、専門的な外傷診療を行う「高度外傷センター」を設置。Acute Care Surgeryは、外傷外科、救急外科、外科的集中治療の3つを外科の一領域として考える米国発の診療概念です。日本においての歴史は10年程であり、新しい領域での研究費の調達経験について、島根大学医学部Acute Care Surgery講座比良英司先生にお伺いします。

Interview:比良英司

島根大学医学部附属病院高度外傷センター、同医学部Acute Care Surgery講座 講師
■専門医
日本外科学会外科専門医、日本救急医学会救急科専門医、日本Acute Care Surgery学会ACS認定外科医、日本外科学会外傷外科医養成研修事業研修修了者、臨床研修指導医
■その他活動
日本Acute Care Surgery学会評議員、SSTTサージカル インストラクター、PC3(周産期救命処置コース)インストラクター

資金調達でクラウドファンディングを選んだ理由

ー医学研究の資金集めをクラウドファンディングでされたと思いますが、その経緯を教えてください。
 島根大学のAcute Care Surgery講座は2016年1月に設立され、4月に高度外傷センターが設置されましたが、設立された当時研究に使用できる資金は全くありませんでしたので、研究資金をどうやって集めるかと話し合いました。
 地方の大学病院の新設講座ですので、クラウドファンディングで自分たちが理想とする外傷診療の構築やそれに関連する研究に賛同してくれる人から広くお金を集めるという方法が合っているのではないかと思ってクラウドファンディングを選びました。
 科研費から研究資金を得る努力は当然必要ですし、当講座も開設以来毎年研究計画を提出していますが、当該分野である程度基礎研究の実績がないと、実現性という面では厳しい評価を受けるという現実があります。しかしながら、その基礎研究を開始するための資金がないわけです(笑)。クラウドファンディングで外傷診療に対する思いの丈を述べて、それに賛同していただける皆様から基礎研究に必要な資金が調達できれば、研究の足がかりになります。その後は他のファンドや科研費から調達した資金で発展的な研究へつなげていきたいと思っています。

実際にREADYFORで公募した画面

ーこの件に関して、大学は、どのようなスタンスなのでしょうか?
 地方大学は周りに連携できる企業が多くありませんので、研究資金を集めるのはなかなか困難です。一昔前と比較して最近は研究資金を集めることがさらに厳しくなっていますので、大学側としても応援してくれています。

ーREADYFORなどのクラウドファンディングは、計画を確実に実行することが要件であって、具体的な研究実績では問われないと伺いました。
 そうですね。クラウドファンディングはプラットフォーム側に、1年間の制約(実行期間)の中で調達した資金をどのように活用したかという用途の報告は必要ですが、研究実績は必要ありません。その点ではクラウドファンディングがすごく使いやすいと思っています。

ー確かに、科研費とか競争的研究費の場合、事前審査でわかることの限界も感じます。他には、公的資金の場合は、資金使途の報告書などの大変さなどありますよね。使いやすさという点でそういう点も魅力でしたか?
 制約が少ないというのがクラウドファンディングの大きな魅力です。しかしながら、我々の場合は、当講座の研究実績を鑑みて、研究資金を調達するためにはどのファンドが一番獲得できる可能性があるかという点を重視して選択しました。

公募で集めるための工夫

ー支援金額は、500万円を超えたそうですが、集める際の工夫や支援者層を教えてください。
 一番使用したのはSNSです。当講座はホームページを開設していて、それにリンクする形でTwitterやFacebook、インスタグラムもやっていますので、それらを駆使して宣伝しました。READYFORでは公募期間中にはREADYFOR側から当講座のスタッフにインタビューが行われ、そのインタビュー内容がREADYFORのホームページ上に週1くらいのペースでアップされましたので、その記事がホームページ上にアップされる度のSNSでREADYFORの記事欄をリンクして拡散していました。
 支援者の詳細は分かりませんが、「応援します」いった趣旨のコメントと共に各方面の知り合いが支援してくれました。また、実際に当センターに搬送されて元気になられた患者さんのご家族からの支援もありました。現在、外傷センターに在籍しているメンバーは11人ですが、それぞれ小、中、高、大学と同級生や友人がいますのでそういったコネクションと、一般の方で実際に我々の取り組みに賛同してもらえた方が支援層という感じです。

ー公募で集めるというのは、プレッシャーがありましたか?
 公募期間が新型コロナ感染症の発生時期と重なってしまって、正直、目標金額の達成は厳しいかなとスタッフ全員が思っていました。「個々の生活が大変な中でクラウドファンディングにお金出してくれないよね、時期が悪かったね」みたいな話をして半分あきらめていたくらいです(笑)。それだけに、新型コロナ感染症で大変な時期でもこれだけの支援金が集まったことに、正直自分達自身が一番驚いています
 我々の取り組みに賛同してくれた人たちの思いが詰まったお金なので、「ちゃんと丁寧に使わなければいけない」と身が引き締まる思いです。支援していただいた皆様には本当に心から感謝しています。

ー確かに科研費とは気持ちが違うかもしれないですね。
 違いますね。支援していただいた皆様からの期待もたくさん詰まっている資金ですので、それを全て背負っている感覚です。この資金を研究の足がかりにして、外傷患者を一人でも多く救命できるようなシステム作りや教育活動につなげていこうと思っています。

長期的視点で目指しているもの

ー継続的な研究で長期的な視点で考えていることはありますか?
 島根県内の重症患者さんを外傷センターが早期に認知できるシステムを作って、搬送先病院の支援ができるシステムを作りたいと思っています。
 幸いなことに、島根県は24時間防災ヘリが運行しています。島根県には隠岐島があって、そこの二次医療機関から本土に24時間防災ヘリを飛ばすシステムが元々ありましたが、外傷センター設置後に県の補助を受けて西の拠点病院すべてにヘリポートが設置されました。拠点となる二次医療機関や三次医療機関はいずれも日本海側に位置していますので、危険な山側を通ることなく、24時間安全に防災ヘリを運行することができるという地理的なメリットもあります。これにより重症外傷患者が拠点病院に搬送されることを外傷センターが認知できさえすれば、夜間であっても当院のスタッフが防災ヘリで拠点病院に向かい、必要があれば蘇生的処置をして外傷センターに搬送することができるようになり、さらに多くの重症外傷患者の命を救うことができるのではないかと思っています。

ー島根をネットワーク化して、地方の先進事例を作りたいという思いがあるんですね。
 島根をネットワーク化すると、同じような事例で助かる地域も結構あるのではないかと思っています。東京や大阪などの都会からではなく、地方から発信できることはまだまだたくさんあります。島根県のシステムを他の地域でも流用されるような形になれば、目標に掲げる日本全国のPTDを減らすということにもつながっていくかもしれません。まずは自分たちの島根県の地固めをして、「島根県はPTDゼロです」と言える未来が私の理想です。
 興味深い事例があって、以前愛媛県から外傷患者の搬送を受けたことがありました。実を言うと出雲市を中心に考えると、島根県の西端と愛媛県の松山市は、ヘリでの搬送距離はそれほど変わりません。山を越えますので24時間は難しいですが、防災ヘリが使えるというのは、我々がカバーできる外傷診療の範囲が広くなるということでもあります。県境を超えるということは色々超えなければならないハードルが多いと思いますが、将来の可能性を感じられる事例でした。

ー外傷診療、高度救命のような話では、ヘリをフル活用すると、従来の二次医療圏という考え方も全然変わってきます。適切な集約化や考え方を柔軟に持っていく必要性を感じました。

本日は、貴重なお話をお聞かせいただき、誠にありがとうございました。