ハイブリッドERを安定稼働させる体制を作るまで

ー2016年に3人で外傷センターを立ち上げて、現在の体制ができるまでの苦労などありましたら、教えてください。
 苦労はたくさんありましたね(笑)。そもそもたった3人で外傷患者を24時間受け入れるっていうところがものすごく大変でした。体力的には今まで歩んできた医師人生の中で一番しんどかったのは間違いないです(笑)。

リクルーティングについて
 いつまでも3人で外傷患者を受け入れていくことには限界がありますので、一緒に外傷診療をやってくれる仲間を集めるためにも、関連学会の上級セッションにたくさん演題を出して自分たちの活動を積極的にアピールしたりもしていました。肉体的には辛かったですが、気心が知れた仲間と一から外傷センターを立ち上げるという経験は誰もができることではないですから、このチャンスを生かして自分達の理想とする外傷センターを作って、日本一の外傷センターにしたいという思いで日々奮闘していましたので、精神的には非常に充実していましたし、最初の1年はあっという間に経過した気がします。その後、翌年には4人の外科医が当センターに赴任してくれて、現在は11人もスタッフがいます。今では、立ち上げメンバーが想定していた以上のスピードで仕組み作りが進んでいますので、仲間になってくれたスタッフには感謝しかありません。

教育と多職種連携について
 スタッフ教育と多職種連携についても苦労しました。外傷センターが立ち上がる前は、島根県の重症救急患者は出雲市のもう一つの三次医療機関である県立中央病院に集約するのが県の示す救急医療体制でしたので、当院に搬送される急患はかかりつけや軽症が中心でした。そのような中で島根県の外傷患者を積極的に大学で受け入れるシステムを構築しようとしましたので、重症外傷患者をほとんど見たこともない看護師やメディカルスタッフに外傷診療を一から教えていく必要がありました。外傷センター立ち上げ当初は、ハイブリッドERがまだ導入されていませんでしたので、出血性ショックの場合は初療室で蘇生的開胸術をしていましたが、そのための物品の準備だったり、診療時の役割分担であったり、初療室内や手術室までの導線だったりを試行錯誤しながらスタッフと一緒に決めていきました。
 また、自分達の外傷診療に対する考え方を看護スタッフやメディカルスタッフだけでなく、他の診療科の医師にも適切に伝えて共有することが重症外傷を救命するためには必須となりますので、整形外科や脳神経外科、麻酔科とは時間をかけて積極的にコミュニケーションをとってきました。重症外傷の診療は看護師やメディカルスタッフだけでなく、他の診療科もほとんど経験したことがありませんでしたので、搬送前のブリーフィングは搬入までの時間がどんなに短くても必ず行って患者の状態や治療戦略をチーム全体で共有できるようにしていましたし、これは今でも続けています。

ー試行錯誤があったと思いますが、特にやってみて良かったものはありますか?
 教育については、症例毎に細かくデブリーフィングをしたことでしょうか。重症外傷の診療が終わったら、できればその日に難しければ数日以内のできるだけ診療の記憶が新しいうちに看護師やメディカルスタッフと振り返りをしていました。診療に関わったスタッフを集めて、診療における疑問点や問題点を洗い出して、その改善策を一緒に見つけ出して共有していく形を基本としました。症例一例一例を大事にして、みんなでルールをつくり上げていくイメージです。血気盛んな外傷外科医3人が突っ走って孤立してしまうことがないように、「みんなで一緒に外傷センターを作ろうよ」というチーム感を大事にしました。実際にそうして来たことで非常に良い外傷チームが出来たと思っています。

ーなるほど、デブリーフィングすることによって教育と他科連携が同時にできるようなイメージでしょうか?
 そうですね。デブリーフィングをして自分達の診療を振り返る、その中で「次回受け入れるときにどうしたらいいか」という話になれば、他の診療科も巻き込んだシミュレーションを企画しました。医師がシミュレーションを押し付けるのではなく、看護師やメディカルスタッフ側から自発的にシミュレーションの提案が出ることに意味がありますし、医師以外のスタッフのモチベーションも違ってきます。
 搬入や血管治療、手術、内視鏡検査などハイブリッドERで行う診療や治療はほとんど全てシミュレーションをしたと思います。そうすることで看護師やメディカルスタッフも他診療科の医師と顔が見える関係が構築できるようになり、さらに連携が取れたシミュレーションができるようになって、実際の診療でも良好なコミュニケーションの中、統制された外傷診療が展開されていくイメージです。
 ハイブリッドERの診療は初療室の診療とは診察から治療までのスピードが全然違います。すぐにCTが撮れて移動せずに治療に移れるということは、それだけ前倒しで診療の展開を読んでいかないと間に合わないということですので、特に診療から手術へ移行するシミュレーションに関しては麻酔科を交えて何度も行いました。
 新しいやり方を進めようとして、誰かが拒絶反応を示すところがあるとしたら、根底にはやはり診療や治療に対する不安があることが非常に多いです。ですから、その不安をどうやって解消していくかという点において、デブリーフィングやシミュレーション、その結果を元に作成した細やかなルールづくりが大切だと思います。

ー麻酔科の先生が来てくれる施設は少ないと思うのですが、実際に呼び出すのでしょうか?
 重症外傷患者が搬入され手術が必要な場合は麻酔科をcallします。大学は各科当直ですので、すぐに麻酔科医がハイブリッドERに降りて来てくれます。搬入して麻酔科がハイブリッドERに降りてくるまでの全身管理は当科の医師が行い、途中から麻酔科に引き継ぐ形です。当院の麻酔科は「手術室以外の場所でも麻酔をする」ことに積極的であり、ハイブリッドERが導入される前の初療室であっても、重症外傷患者の頭元で全身管理をしてくれていましたので、全身管理は麻酔科に任せて我々は目の前の患者の手術に集中できる環境が整っていました。
 外傷センターの立ち上げ当初から麻酔科が外傷診療の集約化に積極的で、可能な限り重症外傷患者の麻酔をかけると言ってくれていましたので、我々は非常に恵まれた環境で外傷センターを立ち上げることができたと思います。

ー現在、課題に感じていることをお聞かせください。
 ハイブリッドERには時間的空間的優位性があり、搬入からすぐにCTが撮れて、移動せずに治療を開始することができるため、患者搬入から止血までの時間を大幅に短縮することができます。しかしこれを生かすためには、使う我々にも診断や戦略決定に今まで以上のスピードを求められるということです。搬入してすぐにCT検査ができるにも関わらず、読影に時間がかかったり、その後の戦略決定に時間を要したり、あるいはコンサルトした診療科の到着を待たなければならなかったりするようではハイブリッドERのメリットを生かし切れているとは言えません。CTを迅速かつ正確に読影すること、そしてCTから得られた情報と患者の生理学的徴候からその後に起こり得ることを予測して適切な順番で治療を行うことは、想像していた以上に難しいことをスタッフ全員が実感しています。
 ハイブリッドERのポテンシャルを十分に引き出すことができるように、手術だけでなく、診断能力や戦略決定能力においてもさらに一歩向上させることが喫緊の課題ではないかと思っています。

ー大変勉強になりました。本日は、貴重なお話、ありがとうございました。

参考:
※1 救命救急センターにおける重症外傷患者への対応の充実に向けた研究
https://research-er.jp/projects/view/127360

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