2.病院内でのデータ転記

データのデジタル連携ができていないことで生じる不利益は、救急搬送の場面だけではありません。救急搬送後も日々、「書類記録業務」という負荷が生じています。救急医療はがん診療などと同様に非常に公共性の高い事業ですので、救急隊も病院側も、診療報酬請求の際に必要な記載に加えて、管轄行政等への各種報告書の提出が義務づけられています。

書類作成業務は、図4で示すように、一人の傷病者が発生されてから外来転帰(入院、帰宅、転院)、さらに入院後の最終転帰(退院、転院、死亡)に至るまで、情報が引き継がれます。これらの情報のうち必要な部分を自治体や総務省消防庁向けの書類に記載したり、診療報酬の請求時に記載したりしています。しかし、 実は、この患者情報はデジタル連携ができていないため、同一患者に関して手作業でデータのコピーや転記を繰り返しています。

図4

具体的には、救急隊が患者情報を病院に引き継ぐ際、救急隊による患者の情報や応急処置の記録が書かれた紙を、病院到着時に病院に引き渡します。医師や看護師はこの情報を電子カルテに手入力することになります。そこに追記して、医師や看護師がいわゆる「診療録記載(カルテ記載)」を行いますが、これは構造化データベースではなく、単なるテキスト記載です。したがって、患者さんの最終的な「診断名」や「入院後の転帰」の情報は、看護師や医療事務が患者さんの電子カルテを個別に開いて、このテキスト記載を読み解き、院内の台帳や行政に提出する書類に転記しています。

さらに、救急隊も、現場活動中は前記した通りとても忙しいため、病院で患者さんを引き継いだのちに正式な各種書類を記載し、さらに消防署に戻ったのちに総務省消防庁に提出するためのデータ入力を(多くの場合手入力で)行っています。現場のスタッフは文字通り書類業務に忙殺されているのですが、それにも関わらず、救急車で搬送された患者さんが最終的に生存したのか、死亡したのかという情報は、消防から病院に送付される「予後調査票(手書き)」を病院側スタッフが任意で記入することでのみ判明するため、多くの自治体で30%〜40%にとどまっています。これだけの書類業務を行っているにも関わらず、データが分断されているがために救急患者の最終転帰が不明なのです。

*なお、消防白書等で公開されている救急患者の「死亡・重篤・重症・中等症・軽症」という分類と「診断名」は、救急車で患者さんが搬入された直後に救急外来の担当医師が「一見して予測した重症度」と「予測した診断名」でしかありません。*

図5

この解決策としては、やはりデータの分断を解決すること、すなわち図5のような医療データの電子化と連携です。電子カルテは個別病院のシステムで、救急隊の活動情報等は自治体のシステムで、管轄部署も設計コンセプトも全く異なります。しかし、このデータの分断を解消することこそが救急医療に関わる政策決定の上で高い価値を持つと考えます。

例えば、救急車を有料化したことで、救急搬送全体数は減るかもしれませんが、もしかしたら最終転帰が悪化して死亡者が増えるかもしれません。30〜40%しか最終転帰がわからない現状では、この政策決定の成否をデータに基づいて判断する手段すら存在しないということになります。救急医療のデータ分断を解消し、データに基づいて政策決定をできるようにしていかないとなりません。

まとめ

救急医療データの分断に関わる課題を2つの視点から紹介しました。

この大きな社会課題の解決には、救急医療の現場を知るメンバーと、最新の技術に通じたメンバー、さらに地域の医療政策を構築するメンバーが協働して活動していくことが必須です。

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