東京大学医学部医学科。
平成29年東京大学入学。現在同医学部医学6年生。東京大学大学院医学系研究科法医学教室でCT画像を用いたGANによる骨折検知研究を行う。現在はTXP Medical リサーチチームの一員として、プレホスピタルや敗血症に関する研究に取り組んでいる。
はじめに
本研究は集中治療後症候群の研究を行なっている劉啓文医師とTXP Medicalリサーチチームの柴田潤一郎さんが共同筆頭著者として2022年4月にJournal of Intensive Care誌から発表した、敗血症によって集中治療室(intensive care unit: ICU)に入室した患者における最適な離床達成の時期を検討した論文を紹介します。なお、本論文は2022年にJournal of Intensive Care誌から出版された論文の中から選ばれる「Journal of Intensive Care賞」に選出され、先日行われた第50回日本集中治療医学会において表彰していただきました。
著者コメント
今回は、敗血症でICUに入室して治療を受けた患者にどのタイミングで離床を達成させるかを検討した研究です。近年、ICU滞在中の早期離床は患者の予後改善に良い影響をもたらすことが報告されている一方で、その離床タイミングに関しては未だ完全なコンセンサスが得られていないことから本研究の着想を得ました。研究の結果としては、ICU入室から2-4日ほどで離床を実現することで、患者の死亡率や退院時の要歩行補助率の低下、ICU滞在日数や入院期間の短縮等に影響する可能性が示唆されました。現状、最新の国際敗血症ガイドライン(surviving sepsis campaign guideline: SSCG) 2021においても、敗血症患者に対するICU滞在中の離床に関する言及は十分になされていません。ICU滞在中だけではなく、その先の長期的な予後を見据えた治療戦略を確立していくためにも、ICU患者の離床に関する研究を発展させていくことが大切であると考えています。私自身、集中治療に関する知識が未熟な身分ではありますが、春からは初期研修医として絶えず学ぶ姿勢を大切にし、この先の集中治療業界に貢献できる人材に成長していきたいです。また、今回の研究に関して「Journal of Intensive Care賞」という形で日本集中治療医学会の方々に評価していただけたことを大変光栄に感じています。関係者の皆様、誠にありがとうございました。
論文概要
Optimal timing of introducing mobilization therapy for ICU patients with sepsis
Keibun Liu, Junichiro Shibata, Kiyoyasu Fukuchi, et al. (Keibun Liu and Junichiro Shibata equally contributed to this paper.)
J Intensive Care. 2022;10(1):22.
研究の背景
近年、敗血症等の疾患でICUに入室した患者が、ICU滞在中・退室後に身体障害、認知機能、精神障害を発症する「集中治療後症候群(post intensive care syndrome: PICS)」が大きな問題となっている[1-3]。そこで、PICS発症を予防するためにも、ICU滞在中から患者の早期離床を達成させる動きが見られており、早期離床による患者予後への影響に関して各地から研究報告がなされている[4-8]。しかし、具体的にいつ患者の離床を実現させるべきか(ICU入室直後なのか管理の安定した一週間頃なのか、など)については研究によって結果が異なり、一定のコンセンサスを得るに至っていない。そこで我々は、敗血症でICUに入室した患者に対し、どのタイミングで離床を達成することがより良い患者予後に関連するかどうかを検討する研究を行うことした。
対象と方法
2013年7月から2017年6月の期間に前橋赤十字病院のICUに敗血症を原因として入室した患者のうち、ICU滞在時間が48時間以上となった18歳以上の成人を対象とした。敗血症患者はSepsis-3基準に基づき、集中治療専門医2名によって後ろ向きに同定された。このとき、骨盤骨折や神経原性疾患などによって離床が困難とされた症例、対象期間中に同一患者の複数回ICU入室のあった症例は除外した。本研究における主要アウトカムは、院内死亡率と退院時要歩行補助率、副次的アウトカムとしてICU滞在日数、入院日数、総医療費を設定した。実施した解析は次の通りである。1) 早期離床(early mobilization:EM)を「ICU入室後3日以内の離床達成」と定義し、患者をEM達成群、非達成(non-EM)群に分類して背景因子を比較。2) Stabilized inverse probability weights (sIPWs)モデルを用いて、EM群/non-EM群のアウトカムとの関連を検討。3) EMの定義となるカットオフを2日〜7日まで一日ずつずらし、早期離床の効果がより高いカットオフを検討。なお、2), 3)の解析においては、患者の年齢、性別、body mass index (BMI)、ICU入室時のSOFAスコア、ICU入室中の治療(昇圧剤や人工呼吸器の使用など)といった交絡因子と考えられる変数を共変量とした傾向スコアを計算した。解析はPython ver. 3.8.12を使用した。
結果と考察
対象となった敗血症患者は全296名であり、そのうち3日以内の早期離床達成(EM)患者は96名、それ以外のnon-EM患者は200名であった。
1) EM患者はnon-EM患者と比較して男性割合が高く(74% vs. 65%)、BMIもやや高い傾向があった(中央値: 22 kg/m2 vs. 21 kg/m2)。また、EM患者はICU入室時のSOFAスコアが低く(中央値: 7 vs. 9)、ICU入室時の敗血症性ショックの割合も低く(55% vs. 69%)、ICU入室中の人工呼吸器使用割合なども低い傾向にあった(61% vs. 70%)(表1参照)。
2) 次に、3日以内の離床達成を早期離床(EM)としてsIPWモデルを用いた解析では、non-EM患者群に対するEM群の院内死亡率は低く(adjusted odds ratios [aOR], 0.22 [95%CI 0.06-0.88])、退院時要歩行補助率も低かった。(aOR, 0.24 [95%CI 0.09-0.61])。また、ICU滞在日数、入院日数、総医療費についてもEM群が小さい傾向を示した ([例] ICU滞在日数の中央値 [IQR], 5.8日 [4.2-7.4] vs. 9.0日 [7.9-10.0])(表2参照)。
3)さらに、 早期離床達成の定義となるカットオフを2日から7日まで一日ずつずらし、2)と同様のsIPWモデルを用いた解析を行った結果、院内死亡率や退院時要歩行補助率など、ほとんどのアウトカムにおいて2-4日の早期離床達成時においてより良好な結果を示した(例:カットオフを2日とした場合の院内死亡率のaOR, 0.21 [95% CI 0.07–0.61] vs. カットオフを7日とした場合の院内死亡率のaOR, 0.45 [95% CI 0.20–1.04])(図1参照)。
表1:3日以内を早期離床達成とした際の早期離床患者(EM)群とnon-EM群の背景因子の比較
Variable | Total patients (n=296) | EM patients (n=96) | Non-EM patients (n=200) | P-value |
Patient demographics | ||||
Age (year), median [IQR] | 75 [65-81] | 74 [65-81] | 75 [65-81] | 0.90 |
Male sex, n (%) | 200 (68%) | 71 (74%) | 129 (65%) | 0.11 |
BMI (kg/m2), median [IQR] | 21 [18-24] | 22 [19-25] | 21 [18-24] | 0.13 |
SOFA score at ICU admission, median [IQR] | 8 [5-11] | 7 [5-11] | 9 [6-11] | 0.09 |
Admission to the ICU directly from the ED, n (%) | 233 (79%) | 75 (78%) | 161 (79%) | 0.88 |
Ambulatory dependence before the admission, n (%) | 48 (16%) | 11 (11%) | 37 (19%) | 0.13 |
Septic shock at ICU admission, n (%) | 190 (64%) | 53 (55%) | 137 (69%) | 0.03 |
ICU management, n (%) | ||||
Invasive mechanical ventilation | 199 (67%) | 59 (61%) | 140 (70%) | 0.15 |
ECMO | 17 (6%) | 4 (4%) | 13 (7%) | 0.59 |
Renal dialysis | 94 (32%) | 26 (27%) | 68 (34%) | 0.29 |
Continuous analgesia (fentanyl) | 204 (69%) | 63 (66%) | 141 (71%) | 0.35 |
Continuous sedation | 201 (68%) | 61 (63%) | 140 (70.0%) | 0.23 |
Continuous vasopressor | 230 (78%) | 70 (73%) | 160 (80%) | 0.18 |
Corticosteroid | 71 (24%) | 20 (21%) | 50 (25%) | 0.47 |
Neuromuscular blocking agent | 8 (3%) | 1 (1%) | 7 (4%) | 0.44 |
表2:sIPWモデルを用いたEM群とnon-EM群のアウトカムの比較
Outcomes | Unadjusted outcomes | Adjusted outcomes | ||||
All patients | Patients in the EM group | Patients in the non-EM group | P-value | Patients in the EM group | Patients in the non-EM group | |
(n=296) | (n=96) | (n=200) | (n=96) | (n=200) | ||
Primary outcomes: | n (%) | n (%) | n (%) | Adjusted odds ratio [95%CI] | Reference | |
In-hospital mortality | 55 (19%) | 7 (7%) | 48 (24%) | <0.01 | 0.22 [95%CI 0.06-0.88] | – |
Ambulatory dependence at the hospital discharge | 139 (47%) | 26 (27%) | 113 (57%) | <0.01 | 0.24 [95%CI 0.09-0.61] | – |
Secondary outcomes: | Median [IQR] | Median [IQR] | Median [IQR] | Adjusted mean value [95%CI] | Adjusted mean value [95%CI] | |
Length of the ICU stays (day) | 6.1 [4.5-9.0] | 5.3 [4.2-6.8] | 6.5 [5.0-10.7] | <0.01 | 5.8 [4.2-7.4] | 9.0 [7.9-10.0] |
Length of the hospital stays (day) | 33.4 [18.2-53.1] | 28.3 [16.8-46.1] | 34.0 [19.5-61.1] | 0.1 | 36.6 [31.6-41.7] | 44.3 [37.1-51.5] |
Total hospital costs (US dollars) | 27,954 [17902-50,058] | 24,823 [14778-39,703] | 32,515 [20,060-51,854] | <0.01 | 28,351 [22,267-34,436] | 37,740 [32,888-42,952] |
図1:早期離床のカットオフを2日から7日まで推移させた際の患者アウトカムの変化

今後の展望
今回の研究において、敗血症でICUに入室した患者について、①3日以内の早期離床は院内死亡率や退院時要歩行補助率の低下と関連が見られること、②早期離床のタイミングは2-4日ほどが望ましいこと、の2点が明らかとなった。この結果を踏まえ、敗血症患者に対する長期予後改善のためには、ICU入室後早期から、患者の状態に合わせて離床を試みることが大切であると考えられる。
現状のSSCG2021では、ICU退室後のリハビリテーションにのみ焦点が挙げられており、ICU滞在中のリハビリテーションについては検討が十分ではない[9]。今回の研究を踏まえてさらなるICU滞在中の離床に関する検討を進め、大規模な多施設共同研究で前向きに検討を行うことで、今後の敗血症患者の治療戦略に影響を与えられるかもしれない。更には、その先のRCTの実現を見据えたい。
参考文献
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