精神科専門医、精神保健指定医。2015年に医学部卒業、初期研修修了後、2017年から2018年ロンドン大学(King’s College London, London School of Hygiene and Tropical Medicine)にて修士取得(MSc. Global Mental Health)。都内病院での精神科医としての勤務を経て、現在東京大学医学系研究科博士課程に在籍。TXP research teamでは精神科、救急科の接点における共同研究を行う。
著者コメント
精神疾患を持つ方の身体疾患の治療がどのような現状にあるかは 近年注目を集めているテーマです。重篤な精神科疾患を持つ方の平均余命はそうでない方に比べて10年以上も短いという研究結果があり、その原因の一つとして受けられる医療の質に差があるのではないかという議論が行われています。
今回は、救急外来経由で予定外入院をされた方を対象に、精神科疾患を持つ方とそうでない方の2群にわけ、入院前30日以内に救急外来の先行受診があった割合を比較することで、入院前に介入できたかもしれない機会にどれだけ差があるかを調べました。この結果を単純に医療の質の差と結びつけることはできませんが、精神科疾患のある患者が身体的不調を訴えて救急外来を受診した場合、帰宅の判断をより慎重にした方がよい可能性を示唆しています。
論文概要
Okuma, A., Nakajima, M., Sonoo, T., Nakamura, K., & Goto, T. Association between comorbid mental illness and preceding emergency department visits in unplanned admissions. Acute Medicine & Surgery, 2023 10(1), e814.
DOI: https://doi.org/10.1002/ams2.814
研究の背景
近年、精神疾患を併存した患者が受けられる身体的加療の質に差があることが報告されつつあるが、救急医療の場における精神科疾患を併存する方の身体的加療の実態についてはほとんど研究がない。そこで本研究では,救急外来経由で予定外入院をした患者の中で、精神疾患の併存と先行する30日以内の救急受診との関連について調査することで、精神科疾患を併存した患者の救急医療の受診の実態について明らかにすることを目的とした。
対象と方法
本研究は、日本国内の3つの病院の救急外来を対象とした多施設過去起点コホート研究である。2017年から2020年10月の間に救急外来経由で予定外入院したすべての成人患者を対象とした。精神疾患を合併しているかどうかで2群に分け、予定外入院前30日以内の先行する救急外来受診割合をアウトカムとした。統計解析には多変量ロジスティク回帰モデルを用いた。
結果
対象患者数は15,118名であった。その内、精神疾患併存群は455人で、精神疾患併存群における予定外入院前30日以内の先行する救急外来受診割合は、非精神疾患併存群のよりも有意に高かった(17.1% vs. 8.8%、未調整オッズ比2.15[95%信頼区間1.76-2.61]; p<0.001)。多変量ロジスティック回帰モデルにおいて、患者背景(年齢、性別、年度、施設、救急車の使用)を調整後も、精神疾患の併存は予定外入院前30日以内の救急外来受診の高い受診割合と有意に関連していた(調整オッズ比2.40;95%信頼区間1.97-2.94;p<0.001)。
Patient characteristics according to comorbid mental illness

Association between comorbid mental illness and preceding emergency department visit among patients with unplanned hospitalizations.

結論
本研究結果は、精神疾患を併存した患者の身体疾患に対して、予定外入院の前に介入する機会がある可能性を示唆するものである。精神疾患を併存する患者が救急外来を受診した場合、より一層慎重に入院適応を考慮する必要があるかもしれない。
今後の展望
本研究では先行受診時の主訴や重症度、帰宅時の状況などは検討できていない。精神疾患を有することが、救急外来受診時に現在行われている身体疾患のスクリーニングプロセスに及ぼす潜在的影響について、さらなる調査が必要である。