日本救急医学会救急科専門医・指導医・評議員、総合内科専門医、呼吸器内科専門医、臨床疫学認定専門家、公衆衛生学修士、医学博士。2002年に近畿大学医学部卒業後、静岡県で総合内科医・呼吸器内科医として勤務。2009年より杏林大学病院高度救命救急センター、2012年より都立広尾病院救命救急センターで救急医・集中治療医として勤務。途中2019年から東京大学医学系研究科公共健康医学専攻で臨床研究を学ぶ。現在救急振興財団救急救命研修所で救急救命士の教育に携わる。2021年よりTXP Medicalリサーチチームの一員として臨床研究指導を行なっている。
研究業績:英文論文47(うち筆頭12、指導的共著・責任著者27)
著者コメント
日本ではDiagnosis Procedure Combination(DPC)データベースなど意識レベルの評価としてJapan Coma Scale(JCS)しか情報がないデータベースが多いという現実があります。JCSは日本国内でしか通用せず、世界的にはGlasgow Coma Scale(GCS)が用いられることが多いため、日本のデータベース研究を用いた研究は、海外の査読者からGCSで記載するように要望されることも多いです。かつてJCSと GCSはよく相関するとか、JCSも予後を予測する良い指標である、という研究は存在しました。しかしJCSをGCSに換算する方法やその妥当性を検証した研究はありませんでした。本研究によりJCSの点数がどのくらいのGCSに相当するのかが海外の査読者や読者にも分かりやすくなり、さらに、JCSをGCSに変換して解析できる可能性が出てきました。今後さらなる検証、妥当性評価をしていきたいと思います。
論文概要
Nakajima M, Okada Y, Sonoo T, Goto T. Development and validation of a novel method for converting the Japan Coma Scale to Glasgow Coma Scale.
Journal of Epidemiology. 2020 [Online ahead of print]
DOI: https://doi.org/10.2188/jea.JE20220147
研究の背景
日本では意識レベルの評価法としてJapan Coma Scale(JCS)が普及している。しかし、JCSから世界標準のGlasgow Coma Scale(GCS)へ換算する妥当性の確認された方法は存在しない。本研究の目的はJCSをGCSに換算する方法を開発し、その妥当性を検証することである。
対象と方法
本研究は、日本国内の3つの病院の救急外来を対象とした多施設過去起点コホート研究である。2017年から2020年の間に救急外来を受診したすべての成人患者を対象とした。参加施設を、JCSからGCSへの換算表を開発するコホート(開発コホート)と、換算表の検証を行うコホート(検証コホート)に分けた。JCSからGCSへの換算表は、GCSの中央値に基づいて作成した。アウトカムは、JCSとGCSの一致率とした。
結果
対象患者数は8,194名であった。開発コホートには7,373人、検証コホートには821人が含まれた。開発コホートでは、それぞれのカテゴリーのJCSにおけるGCSの中央値を基に下記の換算表を開発した。

Japan Coma Scale | Glasgow Coma Scale |
0 | 15 |
1 | 15 |
2 | 14 |
3 | 13 |
10 | 12 |
20 | 12 |
30 | 9 |
100 | 7 |
200 | 6 |
300 | 3 |
検証コホートでは、換算表のJCSとGCSの一致率を評価した。完全一致率は80.3%(95%信頼区間 77.4–82.9%)であった。換算表の1カテゴリーのずれを許容した相対一致率は93.2%(95%信頼区間 91.2–94.8%)であり、両者の一致率は高いことが確認された。
結論
本研究では、JCSをGCSに換算するための新しい方法を開発し、その妥当性を確認した。JCSとGCSの変換表の1カテゴリーのずれを許容すると、救急外来を受診した成人患者において一致率は90%以上であった。本変換法は、研究者が日本のJCSを用いたデータを世界標準のGCSに変換する際の一助になると考えられる。
今後の展望
今までJCSを用いて発表・出版されたビッグデータ研究において、今回開発した換算表を用いて、JCSをGCSに変換しても、結果が変わらないことを検証していきたい。JCSを含む日本のデータベース研究が、世界に通用するような臨床研究になるための礎になればと考えている。