寄稿:畠山淳司

大阪医科薬科大学救急医学教室 特別職務担当教員(講師)

平成19年東京慈恵会医科大学医学部医学科卒業、横浜市立みなと赤十字病院で初期研修医、前橋赤十字病院高度救命救急センター集中治療科・救急科専攻医を経て、横浜市立みなと赤十字病院救命救急センター、国立病院機構東京医療センター救命救急センターで勤務後、令和3年より現職。

日本救急医学会指導医・専門医、日本集中治療医学会専門医、日本熱傷医学会専門医、日本プライマリ・ケア連合学会認定指導医・認定医、日本臨床栄養代謝学会認定医

はじめに

2020年にパンデミックと宣言されたCOVID-19には、周知のとおり多くの方が罹患し、また社会生活の制限がされてきました。後遺症が残ることも報告されており、その実態を明らかにするため日本において重症COVID-19患者を対象とした長期予後の研究が行われ、先日論文が公表されました。今回は、本研究の代表者である大阪医科薬科大学の畠山淳司先生に寄稿していただきました。

論文概要

Prevalence and Risk Factor Analysis of Post-Intensive Care Syndrome in Patients with COVID-19 Requiring Mechanical Ventilation: A Multicenter Prospective Observational Study
J Clin Med 2022;11:5758

研究の背景と目的

救急集中治療医学の発展によって、重症患者の短期予後は飛躍的に改善していますが、それに伴い、重症患者が集中治療室を退室後に機能障害によって社会生活が制限され、生活の質が低下していることが報告されるようになりました。このような重症患者が集中治療室を退室した後に生じる機能障害(身体機能障害、認知機能障害、精神障害)は、集中治療後症候群(post-intensive care syndrome; PICS)と呼ばれており、重症患者の社会復帰に向けて大きな障害となっています。COVID-19は、SARS-CoV-2による感染症で、肺の後遺症、神経障害、集中力低下、疲労、筋力低下など、long-COVIDまたはpost-acute COVID-19と呼ばれる様々な長期後遺症が報告されています。COVID-19患者のPICSは、肺の後遺症や神経障害などの点で一般的な重症患者のPICSとは異なる可能性があります。

今回、人工呼吸管理を要するCOVID-19患者を対象とし、PICS発症率と危険因子を調査・解明するために大規模臨床研究を実施しました。

対象と方法

本研究では、人工呼吸管理を要した成人COVID-19患者で、2020年3月から12月までに集中治療室を退室した患者を対象としました。COVID-19発症前に自力歩行ができなかった患者は除外としています。2021年2月と10月に中央事務局(TXP Medical株式会社)からアンケートを郵送しPICS評価を行いました。PICS評価項目として、身体機能障害、認知機能障害、精神障害、生活の質を調査することとし、評価ツールとして、身体機能はBarthel Index(BI)、認知機能はShort-Memory Questionnaire(SMQ)、メンタルヘルスはHospital Anxiety Depression Scale(HADS)、生活の質はEQ-5D-5Lを用いて評価しました。

結果

本邦の32病院が参加表明をし、410名が対象となりました。そこから、院内死亡患者、アンケート未回答を除く、251名が1回目のアンケートに回答し、209名が2回目のアンケートに回答しました。

1回目のアンケート回答は集中治療室退室後平均5.5ヶ月であり、PICS発症率は58.6%、認知機能障害が46.6%、精神障害が31.9%、身体機能障害が21.9%であり、複数の機能障害が31.9%であり、機能障害が増えるにつれて生活の質が低下していました。また、2回目のアンケート回答は集中治療室退室平均13.5ヶ月であり、PICS発症率は60.8%、認知機能障害が53.1%、精神障害が28.7%、身体機能障害が18.7%であり、複数の機能障害が31.6%であり、1回目と同様に機能障害が増えるにつれて生活の質が低下していました。

PICS発症のリスク因子として、多変量解析を行ったところ、集中治療室在室中のせん妄発症と人工呼吸期間が独立したリスク因子として挙がりました。

今後の展望

COVID-19患者の治療や看護ケアは、一般的な重症患者と異なり制限がかかります。今回の研究でPICS発症としてせん妄と人工呼吸期間が独立したリスク因子であったことは、PICS対策としてのABCDEFバンドルがやはり重要ではないかと考えます。

同時に、本邦の重症患者のPICSの疫学調査の重要性に気付かされました。現在、重症患者の長期予後を調査するJapanese Post-Intensive Care Syndrome(JPICS)データベースを構築しており、重症患者の長期予後の改善に貢献していきたいと考えています。