寄稿:石澤嶺

救急科専門医、認定内科医、外科専門医。2013年に千葉大学医学部卒業後、国立病院機構東京医療センターで初期研修医となり、その後同院救命センターで勤務。レジデント時代には4年連続でベストレジデントに選出される。2021年よりTXP Medical社リサーチチームと共同研究を行っている。

筆者コメント

「外傷患者さんが入院した後に別の部位に外傷が見つかった」と言うのは、救急医療に携わる医療従事者であれば誰もが一度は経験があるのではないでしょうか。特に目立つ外傷がある場合や、問診や身体所見をとることが難しい患者さんは、多忙な救急外来において悩みの種です。本研究では、転倒で受傷する外傷として重要度の高い股関節骨折の患者さんを対象にした記述研究です。著者自身が、股関節骨折の合併損傷に後々気付くと言う苦い経験をした際に感じた「実際にどの程度の頻度で合併損傷があるのだろう」という疑問を形にしました。 本研究を通して、約6%に合併損傷があることがわかり、頭部や上肢に多い傾向が示されています。股関節骨折はcommon diseaseであり、約6%に合併損傷があると言う事実は、救急外来での診療に役立つ内容ではないかと思います。

論文概要

Ryo Ishizawa. Nobuto Nakanishi. Keibun Liu. Tomohiro Sonoo. Kensuke Nakamura. Tadahiro Goto.
Characteristics of patients with hip fractures and comorbid fall-related injuries in the emergency department
Acute Medicine & Surgery. 2022 [in press]
DOI: 10.1002/ams2.805

背景

股関節骨折は高齢者の転倒において最も一般的な外傷の1つである(1)。転倒によって複数の外傷を受傷する可能性があるが、股関節骨折の合併損傷の詳細について調査した研究はない。本研究は股関節骨折の合併損傷の特徴を明らかにすることを目的とした。

方法

本研究は日本国内の4つの病院の救急外来を対象とした記述研究である。2014年から2021年の間に救急外来を受診した成人患者のうち、大腿骨頸部骨折、転子部骨折、転子下骨折を含む股関節骨折と診断された患者を対象とした。40歳未満の患者や高エネルギー外傷の患者(本研究では3段以上または1m以上からの転倒と定義した)を除外した。

結果

対象患者数は288名であった。患者の年齢の中央値は84 歳で高齢者が多く、68%が女性であった。股関節骨折の96%に大腿骨頚部骨折があった。17名(6%)の患者が合併損傷を有しており、最も多かったのは橈骨遠位端骨折などの上肢の外傷(合併損傷の30%)で、次いで頭部外傷(合併損傷の24%)、胸部外傷(合併損傷の12%)、体幹部外傷(合併損傷の12%)であった。

Clinical characteristics of hip fracture and comorbid fall-related injuries

  Presence of comorbid fall-related injuries  
 Patients with hip fracture
(n = 288)
Yes (n = 17)No (n = 271)p value
Age, years (median [IQR])84 (77–89)87 (81–90)84 (76–89)0.12
Women197 (68%)14 (82%)184 (68%)0.21
Transported by ambulance264 (92%)17 (100%)264 (97%)0.20
Comorbidities    
  Hypertension125 (43%)9 (53%)116 (43%)0.41
  Diabetes60 (20%)4 (24%)56 (21%)0.78
  Dementia37 (13%)2 (12%)35 (13%)0.89
  Osteoporosis8 (3%)0 (0%)8 (3%)0.47
Medications    
  Anticoagulants75 (26%)5 (30%)70 (26%)0.74
  Benzodiazepine38 (13%)4 (24%)34 (13%)0.19
  Corticosteroids14 (5%)0 (%)14 (5%)0.34
  On more than 4 medications per day127 (44%)6 (35%)121 (43%)0.45
Type of hip fracture    
  Femoral neck fracture277 (96%)16 (94%)263 (97%)0.42
  Trochanteric fracture91 (32%)5 (29%)86 (32%)0.84
Data were presented as n (%) unless indicated otherwise.
IQR, interquartile range

Comorbid fall-related injuries accompanied by hip fracture

 Details of comorbid injuryOverall (n =17)
HeadSubdural hematoma, Pneumocephalus, Zygomatic bone fracture, Head bruise4 (24%)
ChestClavicle fracture, Pneumothorax2 (12%)
TrunkVertebral compression fracture2 (12%)
PelvisPelvic fracture1 (6%)
Upper limbDistal radial fracture (n=3), Humerus fracture (n=2), Bruise6 (35%)
Lower limbPhalanx fracture1 (6%)
OthersWhole body bruise3 (18%)
Data were presented as n (%).
Comorbid injuries were observed at 19 sites in 17 patients.

結論

本研究では、救急外来を転倒で受診し股関節骨折の診断をされた患者のうち6%に合併損傷があることが示された。過去の研究でも外傷の見逃しは重要なテーマであるが(2)、本研究では、合併損傷は上肢の外傷や頭部外傷が多く通常の画像検査には含まれない部位であることが示されており、注意深い診察が必要と言える。

今後の展望

本研究では、どのような患者に合併損傷が多いかのリスク因子の探究はできなかったため、更なる研究が必要と言える。また、股関節骨折に限らず、高齢者・単独人種の多い日本の救急外来における記述研究は不足しており、更なる研究が必要である。

参考文献

1.     Johnell O, Kanis J A. An estimate of the worldwide prevalence, mortality and disability associated with hip fracture. Osteoporos Int. 2004; 897-902.

2.    Thomson CB, Greaves I. Missed injury and the tertiary trauma survey. Injury: 2008; 39: 107–14.