前回の記事「救急搬送のリアル ①救急隊編 ―救急患者が病院に来る前、どのようなことが起きている?―」では、病院外での救急活動(プレホスピタル)を解説しました。

今回は、119番通報の後、病院の中(インホスピタル)ではどのようなことが起こっているかについて、解説します。

寄稿:園生 智弘

TXP Medical 代表取締役医師。救急科専門医・集中治療専門医。
東京大学医学部卒業。東大病院・茨城県日立総合病院での臨床業務の傍ら、急性期向け医療データベースの開発や、これに関連した研究を複数実施。2017年にTXP Medical 株式会社を創業。2018年内閣府SIP AIホスピタルによる高度診断・治療システム研究事業に採択(研究代表者)。日本救急医学会救急AI研究活性化特別委員会委員。全国の救急病院にシステムを提供するとともに、急性期医療現場における適切なIT活用に関して発信を行っている。

目次▼

  • 救急外来の概要
    1. レイアウト
    2. 人員構成
  • 救急医療の時系列
    1. 病院到着前
    2. 病院到着・診療
    3. 入院・帰宅

救急外来の概要

①レイアウト

 患者さんが来る救急外来は、一例として以下のようなレイアウトになっています。

レイアウト

 救急外来の部屋は、救命センターレベルの病院で、大きく3つのレイヤーにわかれます。

  • 緊急手術やECMO挿入、人工呼吸器管理までできる重症処置室(最近だと、さらにCT撮影機材も同じ室内に一体になったHybrid ERも) 通常1-2部屋
  • 手術までいかない処置(内視鏡、腰椎穿刺、洗浄や縫合)まで可能な一般処置室:2-6室くらい
  • 点滴して経過観察を行う休養室・観察室:2-15室くらい

 患者さんは、その場で部屋を適宜行き来しつつ、必要に応じてエコーやX線、多くの3次救急病院ではCTまで、救急外来で撮影できるようになっています。

②人員構成

 そして、救急外来は、医師以外の専門職も多いことが特徴です。

人員構成

 救命センターでは、救急医(もしくは各科の先生たちの中で、当日の救急の責任医師)は平均的には2-3人同時に勤務しています。他に同時に勤務している医師として初期研修医が平均2-3人いることが多いです。実際にメインで初期対応にあたるのは、1-2年目の医師である初期研修医である病院もかなり多いです。

 一方、救命センタークラスでない、救急車台数の比較的少ない病院では、必要時に病棟から看護師が救急外来に降りてきて医師を呼び、普段は救急外来には誰もいないケースもあります。

 救急隊からのコール時点・来院した時点では、診療科は振り分けられません。

患者さんの初期対応を担当した救急外来の医師が診断をし、専門的な処置・精密検査が必要と判断して、電話で呼んだとき(コンサルト)に各診療科の専門医が診療にあたることになります。例えば、腰痛の主訴で患者さんが来た場合、初療医が

  • 普通の腰椎圧迫骨折だと、整形外科
  • 尿路結石だと泌尿器科
  • 大動脈瘤だと血管外科
  • 膵臓癌だと消化器内科

のように、診断をしたあと各診療科の医師をコンサルトして、病院内の全医師が力を結集させて専門的な治療をしていきます。救急外来において”診療科”という概念は薄く、診療科は決まっていない前提で患者さんは搬送されてきます。このため、特定の診療科の疾患であっても、当該科の先生が患者さんに触れる前に、当日の初療医(診療科はまちまち)が診療対応をすることになります。

 なお、初療医は私のように救急科の場合もありますが、内科や外科の医師が持ち回りの病院(いわゆる各科当番)の方が多いです。院内の全診療科のチーム医療の象徴が救急外来という場所です。

 医師以外の専門職の役職としては、救急の看護師が全体で15-50名ほどいて、シフト制で看護業務(問診、トリアージ、処置補助、入院調整、など)にあたります。また、病院所属の病院救命士(救急救命士の1職種)がいる病院もあり、彼らはドクターカーの運転、救急隊との連絡、転院調整を行います。

病院内救急医療の時系列

救急医療の時系列の全体像は、以下の図のようになります。
119入電~現場活動の部分については、前回の記事で詳しく解説しています。

救急医療の時系列

 それでは、各時点で病院内で起きていることについて、説明していきます。

①病院到着前

 前回の記事でも解説した通り、救急車に乗った患者さんが搬送される病院は、救急隊と病院との電話連絡により決定されます。また、歩いて病院に来る(walkin)患者さんの数は、救急車で運ばれてくる患者さんより多く、症状の重さも人によって様々です。

 救急隊の到着までに、人員の確保と、必要に応じて蘇生用具や加温した輸液・各種モニター・エコーの準備をし、キャップ・ゴーグル・マスク・ガウン・手袋の装着(Standard Precautionと言います)をしておきます。多くの大病院救急外来は複数の患者さんを並行で見ていて雑然としていますから、この際に何分後にどのくらいの重症度の患者さんがくるのか、の情報を整理しつつ、必要な人員配置、部屋のコントロールを瞬時に行うのが熟練した救急医の腕の見せ所でもあります。

②病院到着・診療

 

救急隊に運ばれて患者さんが救急車で来ると、救急隊から情報を引き継ぎます。(実は、この時点での初療医が判断・記載した重症度が、国の統計に使われていたりします。まだ診察を全くしていない状態なのですが…)

その間に、看護師は患者さんの着替えなどを行います。

その後、医師による診察が行われます。
診察のフローは、

診察のフロー

ABCDEの評価(生命の危機を、「気道 Airway, 呼吸 Breathing, 循環 Circulation, 中枢神経 Dysfunction of CNS, 体温管理 Environmental control」で把握)
まず点滴やモニターを装着し、すぐに死に至る状態がないか確認する。この段階で、必要なら人工呼吸器・ECMOの装着や、緊急手術の決定がされるケースも多いです。

問診・診察、検査のオーダー
ABCDEの評価で疾患のあたりをつけつつ生命の危機を把握した後、全身を系統的に検索する。これはベッドサイドに立ちながら行われることが一般的で、疾患のあたりをつけていきます(専門用語だと鑑別診断の鑑別をつける)。
同時に、各種検査のオーダーを行います。

検査待ち(1時間程度)
オーダーに従って検査を実施して、結果を待つ時間が1時間ほどあります。
この間に他の患者でそのまま問診や診察をする場合もごく一般的ですし(マルチタスク)し、他に初期評価が必要な患者がいなければ、ここでまとめてカルテ記載をします。

③入院・帰宅

 救急外来に来た患者さんが全て入院するわけではありません。病院によって割合は異なりますが、救急車で来た患者さんもだいたい入院するのは半分ほどで、残り半分ほどは帰ります。(参考:令和3年 消防白書)。walk inで来た患者さんだと入院する患者さんは数%ほどになります。

 病院全体でみると、救急外来からの入院患者は多く、急性期病院の入院患者のおよそ1/3が通過する場所ともなっています。このため、救急患者の診療と救急外来の効率的運営は病院経営上での大きな柱となっています(ちなみに、残り1/3はかかりつけ患者の悪化、1/3は一般外来への紹介患者と言われています)。

終わりに

 前回・今回の計2つの記事では、救急搬送のリアルについて、救急隊の目線と病院内での目線の双方から解説しました。次回からは、このような救急搬送では、現在どのような課題があるのかについて、現場の医師の目線から語ります。