TXP Medical株式会社(以下、TXP)は2月24日「救急医療のリアルと急性期治験の革新」と題したウェビナーを開催しました。第1部では、急性期における治験の課題整理と症例集積を促進する当社サービスについて、医療データ戦略部の萩野谷部長が紹介。第2部では、救急医療の現場オペレーションについて、現役の救急集中治療医でもある代表取締役の園生が紹介しました。
TXP Medical 代表取締役、医師。東京大学医学部卒業。救急科専門医・集中治療専門医。東大病院・茨城県日立総合病院での臨床業務の傍ら、急性期向け医療データベースの開発とこれに関連した研究を複数実施。2017年にTXP Medical 株式会社を創業。2018年内閣府SIP AIホスピタルによる高度診断・治療システム研究事業に採択(研究代表者)。日本救急医学会救急AI研究活性化特別委員会委員。全国の救急病院にシステムを提供するとともに急性期医療現場における適切なIT活用に関して発信を行っている。
TXP Medical株式会社医療データ戦略部 部長。
日本光電工業において治験PMを務め、その後帝人ファーマにおいて臨床研究の企画・推進を務めた後、2021年3月にTXP Medicalに入社。
医師や看護師等が日常診療業務の上乗せで、治験や臨床研究を実行している状況にも関わらず、治験などに大量の事務作業があることに課題感を抱き、ICTやデータを活用した治験・臨床研究の実行支援を手掛けている。
■第一部:急性期治験の課題と、システム活用による症例集積促進
まず前提として、今回テーマとしている急性期治験は、救急外来の受診を伴う急性期の疾患を対象としたものです。具体的には、急性期脳卒中、急性心筋梗塞、急性心不全、外傷、敗血症、重症呼吸不全、急性膵炎、感染症、等が対象です。
過去に急性期治験を担当された治験PM(プロジェクトマネジメント)・CRA(臨床開発モニター)の方々とお話をした際、ご苦労されてた事例をいくつも伺います。その中でも以下の3つを例として紹介します。
・救急には24時間患者が来院するため、担当CRAに深夜でも電話がかかってくる
・非効率と認識しつつも打てる手が無いため近隣施設に向けて治験広告を出した
・施設を立ちあげても、0で終わる施設が他治験よりも多い

急性期治験の実態について、JAPIC(国内臨床試験情報のポータルサイト)などを元に調査したところ、必要な症例数に対し施設数が多く、症例登録期間も長い治験が多く見受けられました。症例登録に苦労していることがわかります。それに対し、急性期脳梗塞治験1件を題材に当社が推奨する複数施設で症例数を推計すると、1施設あたり月6.9例の候補患者がいることがわかりました。1次スクリーニングの実施率と同意取得率が一定水準確保できれば、月に1例×施設数以上のペースで症例登録が可能だと考えられます。

急性期治験の課題は大きく4つあります。
1. 時間的制約
救急患者は24時間365日来院しますので、多くの時間帯ではCRCによる治験のサポートを受けられません。また急性期の場合、選択除外基準に時間制限が設けられていることも多いです。例えば、「発症後8時間以内に割付」「搬送後12時間以内に治験薬投与が必要」といったものです。そのため救急初療からスクリーニングかけることが重要です。
2. 同意取得が困難
救急搬送されて病院到着から処置、検査までの時間は30分から180分で、その後患者に対する処置説明や入院同意を行い、入院もしくは帰宅されます。入院や帰宅した後では同意説明がしにくいため、入院同意のタイミングで同時に治験の同意説明をするのがベストです。そのためには前段階の処置や検査を行っている段階で治験候補であることを認識しておく必要がありますが、目の前の患者に慌ただしく対応している現場では難しいのが現状です。
3. 症例促進が困難
いきなり発症する急性期患者に対し、広告、カルテスクリーニング、近隣病院からの患者紹介等の症例促進策はいずれも症例促進に繋がりません。
4. 施設選定の複雑性
急性期の患者は救急搬送や救急外来での初療対応の後に専門医にたどりつくというフローがあり、これを理解した上で施設を選定する必要があります。特に救急搬送フローは都道府県のMC(メディカル・コントロール)協議会で策定された上で個々に決められ、年々更新されるので、地域ごとの最新状況を踏まえて施設選定することが必要です。

こうした状況に対して当社では「NEXT Stage ER」を活用した「患者リクルーティング支援システム」「救急隊への通知機能」「治験フィージビリティ調査支援」という3つの治験支援サービスを提供しています。

「患者リクルーティング支援システム」
当社が救急外来向けに提供しているNEXT Stage ERに入力される各種患者データと、治験の選択・除外基準を、システム上で自動照合することで候補患者の自動スクリーニングを行います。更に、候補患者に対して次にどのような確認したら良いのか、院内の誰に連絡すれば良いのか、次アクションをシステム上に通知します。
従来の急性期治験では、一連の検査や処置が完了し落ち着いた後に治験の候補患者であることに気づくことが多かったのですが、本機能を活用することで早ければ救急隊から電話を受けた時点で候補患者と気付く事ができ、患者の来院前から準備をしておくことが可能となります。
また、救急外来には各診療科の医師を含めた体制で運用され、シフト制となっているため、大病院では総勢100名を越えるスタッフが出入りする現場となっております。この人数のスタッフ全員に治験内容を熟知させるのは現実的ではありません。そのため、治験の候補患者と認知しても対応ができず治験の登録に繋がらなくなります。ここでシステム上に次アクションの提示をすることで、詳細把握していないスタッフでも対応が可能になります。
この機能は、既存のシステムにアドオンする形で実現するため、従来の臨床業務フローの中で運用できるようにしているので導入のハードルが低く、現場に受け入られやすいことが特徴です。

救急隊への通知機能
もう一つ当社では救急隊の業務を支援する「NSER mobile」を開発しています。現場の状況や患者データ、応急処置の内容などをモバイル端末で簡単に入力できるシステムで、搬送先の候補確認や選択も可能です。入力したデータは搬送先の病院にあらかじめ送信することができ、そこに治験情報も表示できる機能を追加しました。救急隊と受け入れ病院先の双方に治験候補患者である旨が表示されるため、救急隊に治験実施を知ってもらうことと、受入病院先の早期治験患者受け入れ準備ができることが期待されます。

治験フィージビリティ調査支援
急性期治験においては、疾患・重症度の特性や、最新のメディカルコントロールを考慮しなければ、救急搬送フローの中で全く対象患者の集まらない施設を選定することにもなりかねません。
当社は「NEXT Stage ER」の導入施設における対象症例数を推計と、救急医・集中治療医の視点で施設選定コンサルテーションにより、治験フィージビリティ調査を支援します。

■第二部:救急医療のリアル NEXT Stage ERの製品デモ
第2部では主に製薬会社の方たちに向けて、救急外来の現場理解していただくために、現場の状況をわかりやすく紹介しました。
日本の救急医療体制は現場を1次、2次、3次に分けてそれぞれ適切な施設に患者が行くことになっています。患者が歩いて行ける場合は一次救急へ、救急車で搬送される場合は2次か3次救急で、特に重症な場合は三次救急に運ばれます。とはいえ、日本は大病院信仰が根強いため、一次に行くべき患者が三次救急に大量にやってくるのが実情で、全国で約2000カ所ある二次救急のうち上位の3%と約300カ所ある三次救急で日本全体の50%を受け入れています。

今年はCOVID-19の影響で減っていますが、消防庁の統計によると救急搬送件数は年間600万件ほどで、人口に対する救急搬送割合はどの都道府県も地域差はほとんどありません。例えば茨城県は人口280万人に対し14万件というように、人口を20で割った数がおおよその救急搬送数となっています。また、地方でも平均8分で救急車が来て、40分で病院到着する世界有数の優れた搬送体制が整えられています。(病院数の多い地域では、更に早く病院到着します。)
救急患者は近くの病院か適切な病院に搬送され、必要に応じてドクターヘリやドクターカーを利用します。私(演者)が勤務する日立総合病院は茨城県で2番目に多く救急搬送を受け入れており、年間で1万8000人と全体の3分の1の患者が搬送されるという極めて高度な集約ができています。ただし、メディカルコントロールが日々行われ、搬送フローは毎年調整されます。例えば、去年は脳卒中の搬送先に指定されていた施設が翌年からはほとんど脳卒中の搬送がなく、別の病院に運ばれる、ということも珍しくありません。

一方で救急医が不在の病院もあり、心筋梗塞の患者が搬送されると循環器の医師が呼ばれるというように院内の全ての医師が救急に関わることもあります。つまり救急外来に特定の診療科は存在しないのです。また通常救急外来は1、2年目の研修医が対応する場合が多く、それに加えて看護師が交代でシフトにあたり、近所の救急消防本部から救命士が来るケースもあります。

救急外来を時系列で見ていくと、119番に入電があり、40分後に病院搬送される間に血圧測定、疾患予測、専門対応、病院との電話連絡が行われます。救急では通常の診療に比べてカルテ入力が遅く、搬送前や搬送直後の情報を入力することができません。当社のNEXT Stage ERではカルテで受付できない段階から情報入力することができるよう設計してあります。救急外来で最初に対応するのは救急看護師、救急救命士、研修医なので、そこへ情報を周知する事が治験においては重要であり、NEXT Stage ERの活用が有効に働きます。

「NEXT Stage ER」は入力した救急患者のデータを電子カルテにそのまま転記でき、同じ端末(PC)で画面を切り替えながら使うことができます。従来はホワイトボードに手書きしていた救急患者の一覧や入院状態が即座に確認できるなど、医師が使いやすいシステムになっています。さらに救急隊向けの「NSER mobile」では、現場の負担をできるだけ減らすため、お薬手帳や保険証のデータをOCRで入力できますし、音声入力も可能です。さらに自動構造化技術によりテキストをリアルタイムでデータ構造化するフロントプロセッサ技術を搭載しております。このような入力支援により、詳細なデータを活用しやすい形で記録され、高度な治験スクリーニングが可能になります。
また、基礎疾患、常用薬といった通常診療の記録ではなかなか収集できない情報を、救急隊はルーチンで聴取します。このような情報も当社が提供するプラットフォームに集約されます。救急外来のデータ分析をはじめ、レセプト病名ではなく医師が判断した診断名を収集したり、病院内で使用しているLINE Works などと連携してメッセージ通知もできるといった拡張性も備えており、全体的で業務効率化が図れます。

第1部で紹介した治験リクルーティングを支援する機能は、脳梗塞の治験等で既に利用されています。治験候補となる患者のデータが入力されると「NEXT Stage ER」の画面上にフラグが立ち、その他の症状や診断名にあわせて治験対象かそうでないかが判断されます。治験対象の確率が高い患者の場合は治験チェックリストがポップアップ表示され、その場で詳細が確認できます。忙しい救急現場において、こうしたリマインドがあるだけで症例リクルートの効率が変わることが期待されます。

ウェビナーでは「NEXT Stage ER」と「NSER mobile」を実際に現場で利用している様子を動画で紹介し、操作画面とあわせて詳しく解説しました。当日は参加者の方々から寄せられたたくさんの質問にも回答し、システムに対する理解を深めていただきました。