寄稿:岡田 遥平

救急専門医、外科専門医、集中治療専門医。京都府立医科大学卒業後、京都市内の救命救急センターで初期研修、救急/集中治療、Acute care surgeryの修練を行い2018年より京都大学大学院医学研究科社会健康医学系専攻予防医療学分野で臨床研究を行なっている。2021年よりTXP Medical リサーチチームの一員として予測モデルに関する研究に取り組んでいる。
研究業績:英文原著論文43編(うち筆頭著者17編、指導的著者12編)

はじめに

TXP Medical リサーチチームでは救急外来データシステムNEXT Stage ERを利用したデータベースを用いて研究開発や臨床研究を行っています。今回はThe American Journal of Emergency Medicine 誌から出版された、救急外来の若年女性の腹痛患者のなかで産婦人科疾患を予測するPOPスコアの外的検証を行った論文を紹介します。

筆者コメント(岡田)

救急外来において、若い女性が腹痛を訴えて受診したとき、産婦人科疾患も考慮することが必要です。特に子宮外妊娠や卵巣腫瘍の捻転などは緊急手術が必要な産婦人科疾患で、早期診断、早期治療が重要となります。こうした産婦人科疾患を救急外来でスクリーニングするためのツールとして我々は以前にPOPスコアを開発しました(1)。このPOPスコアは、1: 産婦人科疾患の既往歴 (Past history)、2: 他の症状(発熱や消化器症状)の欠如 (No Other symptom)、3: 腹膜刺激徴候(Peritoneal sign)の3項目からなり(表1)、腹痛のある若い女性の患者で2項目以上を満たす場合は産婦人科疾患が疑われると判定するスコアリングシステムです。

このPOPスコアは問診と身体所見のみで産婦人科疾患を簡便にスクリーニングできることから産婦人科へのコンサルトや、経膣エコーなどの負担感がある検査を検討する場合に救急外来で有用と期待されています。しかし、このPOPスコアが開発された救急外来と異なる救急外来でも応用可能かどうか(外的妥当性)についてはまだ研究されていませんでした。そこで今回の研究では、POPスコア予測性能の外的妥当性について検証しました。結果としては、POPスコアは精度高く産婦人科疾患を予測できることが確認され、救急外来における産婦人科疾患のスクリーニングツールとして有用であることがわかりました。

こうした身体所見や問診は、最も基本的な診療プロセスであるにもかかわらず、その診断性能のエビデンスはほとんどないのが現状です。もし皆さんも、こうした身体所見や問診の診断・予測性能に興味があれば、一緒に研究できればと思います。

項目点数
Past History (産婦人科疾患の既往歴)あり+1点
Other symptoms(発熱、下痢、嘔吐)がない+1点
Peritoneal sign (腹膜刺激兆候)あり+1点
合計 点
表1: POPスコア

論文概要

Okada Y, Okada A, Ito H, Sonoo T, Goto T. External validation of the POP score for predicting obstetric and gynecological diseases in the emergency department.
Am J Emerg Med. 2021 Nov 17;51:348-353.

doi: 10.1016/j.ajem.2021.11.022.
PMID: 34808457.


本研究の目的

腹痛を訴える若い女性が救急外来を受診したとき、産婦人科疾患はその原因の一つとして重要である。特に子宮外妊娠などは緊急手術が必要であり、診断の見落としや診断の遅れは患者の生殖機能や生活の質に影響を及ぼす可能性があるため適切な診断アプローチが必要である。

岡田らが以前に報告したPOPスコアは救急外来における産婦人科疾患を予測するための簡便なスクリーニングツールである(1)。このスコアは1: 産婦人科疾患の既往歴 (Past history)、2: 他の症状(発熱や消化器症状)の欠如 (No Other symptom)、3: 腹膜刺激徴候(Peritoneal sign)の3つの予測因子がそれぞれ1点ずつで構成されている。しかし、その外的妥当性はまだ評価されていなかったため、本研究では、POPスコアの外部検証を行うことを目的とした。

対象と方法

本研究は、2017年1月から2020年10月までに行われた、日本の3つの三次医療機関における救急外来のNEXT Stage ERを活用したデータベースによる多施設共同の後方視的コホート研究である。腹痛を有する16~49歳の若年成人女性を解析対象とした。参考となる先行研究としてPOPスコアのロジスティック回帰モデルを用いて、産婦人科疾患の予測確率を算出している。予測値と実際の観測値を比較し、モデルのキャリブレーションを評価し、さらにPOPスコアの予測性能(感度、特異度、尤度比)を評価した。

結果

救急外来の患者66,599人のうち、若年成人女性1,026人(年齢の中央値[四分位範囲]:31[23-41]歳)を解析対象とした。C統計量は0.645[95%信頼区間(CI):0.603-0.687]であった。産婦人科疾患の予測確率は、概ね実際の観測値とよく一致していた(図1)。産婦人科疾患の判定基準を2点から3点の間に設定した場合、陽性尤度比は9.72[95%CI:3.33-28.4]であった。産婦人科疾患を除外するためのカットオフを0点から1点に設定した場合、陰性尤度比は0.181[95% CI: 0.059-0.558]であった。これらの結果は先行研究と概ね一致していた。

図1:POPスコア点数ごとの産婦人科疾患の予測値と実際の観測値

まとめ

3つの三次医療機関の救急外来のデータを用いて、産婦人科疾患の予測のためのPOPスコアの外的妥当性について検証した。このPOPスコアは、救急外来で腹痛を訴える若年成人女性の中から産婦人科疾患をスクリーニングするのに利用できると思われる。

今後の展望

今回の研究で救急外来における産婦人科疾患の予測におけるPOPスコアの外的妥当性が確認された。今後は、POPスコアで産婦人科疾患を予測することが、臨床現場の医師の見落としを減らすことができるか、診断までの時間短縮につながるか、といった効率的で最適な診断プロセスに与えるインパクトを検証していくことが今後の課題であると考えている。

参考文献

  1. Okada A, Okada Y, Fujita H, Iiduka R. Development of the “POP” scoring system for predicting obstetric and gynecological diseases in the emergency department: a retrospective cohort study. BMC Emergency Medicine. 2020;20(1):35.