寄稿:柴田 潤一郎

東京大学医学部医学科在籍。平成29年東京大学入学。同医学部医学科5年生。東京大学大学院医学系研究科法医学教室でCT画像を用いたGANによる骨折検知研究などを行う傍ら、TXP Medical リサーチチームの一員として、プレホスピタルや敗血症に関する研究に取り組む。

はじめに

TXP Medical リサーチチームでは救急外来データシステムNEXT Stage ER(NSER)、集中治療室管理システムNEXT Stage ICU (NSICU)を利用したデータベースを用いて研究開発や臨床研究を行っています。今回はThe American Journal of Emergency Medicine誌から出版された、救急外来において感染が疑われて病着時初期qSOFAスコアが2点未満だった患者について、敗血症の発症リスク因子を検討した論文を紹介します。

筆者コメント(柴田)

救急外来において敗血症をいち早く疑うためのスクリーニングツールとしてqSOFAスコアが知られています。qSOFAスコアは、収縮期血圧(≤100 mmHg)、呼吸数(≥ 22/min)、意識変容(GCS <15)という3項目からなり、感染症のある患者で2項目以上を満たす場合は敗血症が疑われると判定するスコアリングシステムです。qSOFAスコアは少ない項目で患者の予後を簡便に予測できるために救急外来での利用に向いていると言えますが、その感度は十分ではなく、後々敗血症の診断に至る患者が見逃されうるという懸念があります。そこで今回は、救急外来において感染症が疑われてqSOFAが2点未満であった患者に注目し、病着時の初期バイタルサイン、主訴、既往歴といった、救急外来においてルーティンで取得する項目の中から敗血症の発症リスク因子となる項目をロジスティック回帰モデルにより検討しました。今回が筆者の初めての臨床研究となりましたが、将来救急医療に携わりたいと考えている身として、今後も幅広い視点からCriticalな医療現場のクリニカルクエスチョンを見つけ出し、患者個々人に最適な医療の実践へ繋げられるような研究をしていきたいと考えています。

論文概要

論文概要

Risk factors of sepsis among patients with qSOFA<2 in the emergency department
Shibata J, Osawa I, Honoka I et al.
American Journal of Emergency Medicine 50 (2021) 699-706


本研究の目的

敗血症は感染症を背景とした重篤な臓器障害を呈する致死的な病態であり、救急外来においては敗血症の疑われる患者を速やかに特定して治療介入を行うことが重要である[1]。qSOFAスコアは、収縮期血圧(≤100 mmHg)、呼吸数(≥ 22/min)、意識変容(GCS <15)という3項目からなる救急外来において敗血症のリスクを評価するために用いられるスコアリングシステムであり、2項目以上を満たす場合には敗血症が疑われる。しかし、このqSOFAスコアは感度が十分ではないこと(約0.30-0.60)が報告されており[2-4]、qSOFAが2項目未満でも敗血症の診断に至る患者がある程度いることが報告されている[5]。そこで我々は、qSOFAが2項目未満でも敗血症の診断に至った患者の病着時初期バイタルサイン、主訴、既往歴といった項目に着目し、敗血症発症のリスク因子について検討を行った。

対象と方法

2018年4月1日から2020年3月31日の期間に日立総合病院に救急搬送され、救急医が初療に当たった18歳以上の成人患者のうち、感染症の関与が疑われ、かつ病着時の初期qSOFAスコアが2点未満である症例2025例を同定した。感染の関与が疑われた症例は、来院時体温が37.5度を超えていた症例または救急医が感染症の関与を疑った症例のいずれかを満たすものと定義した。このとき、外傷・心停止症例、入院せず他院へ転送となった症例、またバイタルサインの大部分が欠損していた症例は除外した。この2025例のうち、敗血症と診断された症例、ICU入室した症例はそれぞれ151名、580名であった。敗血症の診断はRheeらが提唱したThe sepsis clinical surveillance definitionを改変した独自の定義を用いた。これらは後ろ向き研究においてSepsis-3 criteriaに準じた敗血症の同定を行うために広く用いられている定義である[6-8]。そして、患者の年齢、性別、病着時初期バイタルサイン、病着時の酸素投与の有無、主訴、そして既往歴の各項目を敗血症の発症リスクの候補因子としてロジスティック回帰モデルを用いた検討を行なった。データは全てNEXT Stage ERおよびNEXT Stage ICUを通して取得した。

結果と考察

病着時のqSOFA が2点未満であった患者2025名のうち、その後Sepsis-3 criteriaに準じて敗血症と診断された患者は151名(7%)であった。敗血症と診断された患者は、敗血症の診断に至らなかった患者と比較して年齢が高い傾向にあった(中央値: 80 vs. 72)。バイタルサインについては、心拍数が高く(median: 102 /min vs. 93 /min)や意識変容(17% vs. 5%)があり、そして酸素飽和度が低い(median: 95% vs. 97%)などの傾向にあった。また、救急外来到着時に酸素投与を受けていた割合は高く(44% vs. 16%)、主訴として悪寒(4 % vs. 1%)や呼吸困難(17% vs. 11%)を訴える場合が多く、また既往歴については、糖尿病(22% vs. 15%)、慢性腎不全(6% vs. 3%)などを有する場合が多かった。

次に、多変量ロジスティック回帰モデルを用いた解析では、患者が高齢である(高齢者[65歳以上]の若年者[40歳未満]に対するOR, 2.86 [95%CI 1.83-4.60])、敗血症を示唆するようなバイタルサインがある([例] 呼吸数のOR, 1.03 [95%CI 1.01-1.06]、意識変容の OR, 3.50 [95%CI 2.25-5.50])、救急外来受診時に酸素投与を受けている(OR, 1.91 [95% CI 1.38-2.66])、主訴が咽頭痛である(OR, 2.15 [95%CI 1.08-4.13])、既往歴に糖尿病、虚血性心疾患、慢性腎不全がある([例] 糖尿病のOR, 1.47 [95%CI 1.10-1.96]) 場合には、救急外来到着時のqSOFAスコアが2点未満であってものちに敗血症と診断されるリスクが高いという結果となった(図1参照)。その一方で、収縮期血圧が高く(OR, 0.93 [95%CI 0.89-0.97])、主訴が腹痛または胸痛 ([例] 腹痛のOR, 0.26 [95%CI 0.14-0.45]))である場合は敗血症と診断されるリスクが低いという結果が得られた。また、qSOFAの3項目である収縮期血圧、呼吸数、意識変容を敗血症の発症リスクの候補因子から除外して行った感度解析についても、主解析同様の結果が得られた(図2参照)。

図1:救急外来で感染が疑われqSOFAが2点未満だった患者の敗血症の発症リスク因子
図2:感度解析(qSOFAの3項目を除外して検討した場合)

今後の展望

今回の研究において、救急外来におけるqSOFAが2点未満であってものちに敗血症と診断される患者のリスク因子として、①高齢であること、②敗血症を示唆するようなバイタルサインを有すること、③生命を脅かす感染症に起因する特異的な主訴(咽頭痛)を持つこと、また④免疫系の障害と全身性臓器損傷に関連する既往歴(糖尿病、虚血性心疾患、慢性腎不全)を有することが明らかとなった。このことから、臨床医はqSOFAスコアのみをスクリーニング目的に使用にするのではなく、バイタルサインの絶対値に着目すると共に、主訴、既往歴についても積極的に聴取することで、敗血症が疑われる患者のスクリーニング精度を向上させ、より適切な治療介入が可能となる可能性がある。

また、本研究で明らかとなったリスク因子を考慮し、大規模な多施設共同研究で前向きに検討を行うことで、一般化可能性が高く、qSOFAよりも高精度の敗血症リスク評価システムの構築が可能となるかもしれない。

参考文献

  1. Singer M, Deutschman CS, Seymour CW, et al. The Third International Consensus Definitions for Sepsis and Septic Shock (Sepsis-3). JAMA. 2016;315(8):801–810.
  2. Askim Å, Moser F, Gustad LT, et al. Poor performance of quick-SOFA (qSOFA) score in predicting severe sepsis and mortality – a prospective study of patients admitted with infection to the emergency department. Scand J Trauma Resusc Emerg Med. 2017;25(1):56. Published 2017 Jun 9.
  3. Fernando SM, Tran A, Taljaard M, et al. Prognostic Accuracy of the Quick Sequential Organ Failure Assessment for Mortality in Patients With Suspected Infection: A Systematic Review and Meta-analysis. Ann Intern Med. 2018;168(4):266-275.
  4. Umemura Y, Ogura H, Gando S, et al. Assessment of mortality by qSOFA in patients with sepsis outside ICU: A post hoc subgroup analysis by the Japanese Association for Acute Medicine Sepsis Registry Study Group. J Infect Chemother. 2017;23(11):757-762.
  5. Wang HE, Jones AR, Donnelly JP. Revised National Estimates of Emergency Department Visits for Sepsis in the United States. Crit Care Med. 2017;45(9):1443-1449.
  6. Rhee C, Kadri S, Huang SS, et al. Objective Sepsis Surveillance Using Electronic Clinical Data. Infect Control Hosp Epidemiol. 2016;37(2):163-171.
  7. Rhee C, Dantes R, Epstein L, et al. Incidence and Trends of Sepsis in US Hospitals Using Clinical vs Claims Data, 2009-2014. JAMA. 2017;318(13):1241-1249.
  8. Delahanty RJ, Alvarez J, Flynn LM, Sherwin RL, Jones SS. Development and Evaluation of a Machine Learning Model for the Early Identification of Patients at Risk for Sepsis. Ann Emerg Med. 2019;73(4):334-344.