病院の理念に「24時間365日、すべての救急車収容要請を受け入れる」を掲げ、実践していることで知られる湘南鎌倉総合病院は、救急外来が目指すべきモデルとなる医療施設として全国から注目を集めています。2018年から救命救急センター長を務める山上浩先生は、臨床医として救急の現状や重要性を様々な場から発信し、将来に向けた人材育成にも力を入れています。COVID-19の感染拡大で一般からも今まで以上に注目を集めるようになった救急医療のあり方は、これからどのように変わろうとしているのでしょうか。最前線で活動する山上先生にお話を伺いました。

Interview:山上 浩

湘南鎌倉総合病院救命救急センター長。日本救急医学会指導医、日本救急医学会救急科専門医。2003年福井大学卒。2013年に湘南鎌倉総合病院救急総合診療科部長に就任。2018年より現職。

現場を知る救急医を中心にCOVID-19対応を計画

-普段の仕事内容について教えてください。
 湘南鎌倉は病院の理念に「24時間365日、すべての救急車収容要請を受け入れる」を掲げ、一般的な救急病院と少し異なり、救急搬送される患者だけでなく、歩いて来る患者も軽症から重症まで新生児もお年寄りも100%受け入れています。私自身は初療や最初の蘇生行為、評価を行う部署の責任者という立場で通常の仕事の7割は臨床業務を担当していますが、3割ほどがセンター長としての事務仕事で占められており、研修医教育なども行っています。

湘南鎌倉総合病院

-COVID-19の感染拡大で仕事は変わりましたか?
 変わりましたね。去年の1月頃はパンデミックと言ってもそれほど大変なことにならないだろうと考えていましたが、2月にクルーズ船ダイヤモンド・プリンセス号で最初の入院患者が出た数日後に救急外来でも陽性患者が出たことから、すでに市中感染が始まっていると危機感を持ちはじめました。今までの経験から発熱患者は絶対当院に来るとわかっていましたし、私たちには断るという選択肢はありません。患者を受け入れるには病院の体制を大きく変える必要があり、私が通常のシフトを3割に抑えて7割をCOVID-19対応に必要な事務作業にあてました。今年2月頃には病院として精一杯すべき準備はできたと考え以前のシフトに戻しましたが、今後状況が変われば再び対応に回らなければいけなくなるかもしれません。

-具体的にどのような対策を行われたのでしょうか?
 まず病院敷地内に一般外来とは別にプレハブの「発熱外来」を設置しました。当時は施設を作るための情報が何も無かったのですが、患者と職員の安全を守りながら必要な設備や動線を考えるのは現場の医師しかできないと考えて取り組みました。場所を決めてから診察室や待合室など必要なキャパシティを確保し、PCR検査用に隔離された場所が必要か、専用のレントゲン室を設置するかといったアウトラインを書き出し、ゼネコン会社に設計図を起こしてもらいました。細かいところでは、これまでPCR検体は医師が取っていたのですが、看護師に手伝ってもらわなければ対応できなくなると考え、アクリル板から腕だけ出して安全に作業できる方法をネットから見つけて、事務員の知り合いのアクリル加工業者にお願いして作ってもらいました。発熱外来の予算は約3000万円にもなり、国の補助金が出る前に病院が自腹で行う必要がありましたが、「全ての患者を受け入れる」という理念はコロナでもぶれず、そもそもなぜ依頼を受け入れるのかという議論は一切ありませんでした。必要な動線を確保できたことも含め、現場に指揮権を与えてくれた院長の英断があったから実行できたのだと思います。

発熱外来

 さらに発熱外来とは別に神奈川県からの受託で中等症患者用仮設専門病床を180床設置しました。こちらは私の同期にあたる集中治療部の小山洋史先生を責任者に若手が中心となって対応にあたりました。COVID-19病棟の患者は現時点(取材は4月27日に実施)では思うほど急増しておらず、おそらく神奈川が県をあげて連携し、病床を増やして一極集中しないようまんべんなく受け入れるよう体制を整理しているのだと思います。ですが今後は第3波より陽性患者が増える可能性もあり、それについては最悪のシナリオも想定しながら対応をシミュレーションしているところです。

救急対応は地域にあわせた方法を考えることが必要

-湘南鎌倉はどうして救急患者を100%受け入れることができているのでしょうか?
 それは鎌倉という地域性やちょうどいい人口バランス、他の病院との距離感といった偶然が重なっているところがあるかもしれません。当院の受け入れ件数は日本一だと自負していますし、もちろん病院の努力や理念があってこそ実現できているわけですが、同じ救急病院では横須賀共済病院や横浜市立みなと赤十字も年間1万件を越えるキャパシティがあり、藤沢市民病院も年間約8000件を受け入れているのでパンクしないというのはあります。当院の入院キャパシティは600床を越えるぐらいなので、当院から転院搬送する必要がある場合は、地域の病院に快く受け入れてもらっていますし、救急で手が足りない場合は当院で診るなど補完しあっています。全国に湘南鎌倉があればいいのではないかと言われますが、東京の都心部に当院があっても成功しないでしょうし、それぞれの地域にあわせた救急医療体制が必要だと思います。

-病院間でのコミュニケーションにも配慮されていますが、院内でも他の診療科との関係をスムーズにするためにしていることはあるでしょうか?
 内科とは週1回、外科とは月1回ミーティングを兼ねた定期カンファレンスを行っています。救急は他診療科の医師に入院や手術を依頼しますがその逆はほぼないので、一方向にお願いをするだけでなく普段から彼らの負担を減らすことを心がけています。例えば時間外の患者や退院直後に何かあった時などは救急が全て引き受け、相談しやすい関係づくりが自然にできる形を築こうとしています。

-SNSなどのツール活用や医療のデジタル化は必要でしょうか?
 部署内では勉強会を行い、経験や勉強したことを院内SNSのワークプレイスで共有し、参加できなかったスタッフが資料を読んだりチャットでディスカッションしたり、記録として残すようにしています。それ以外では外部に向けた情報発信にFacebookやインスタグラムを運用しています。コロナを機に国もようやく医療のDXに取り組みはじめたので、使えるテクノロジーは取り入れて医療従事者のタスクシフトとシェアを進め、これからまだ増える救急需要に対応する必要があると考えています。その一つとして、TXP Medicalが開発を進めている救急隊と音声入力で連携するシステムはとても重要で、急性期病院では必要とされるものなので他でも導入が進むのではないでしょうか。

救急総合診療科のFacebookページ

独自のプログラムが人材の循環を生み出す

-湘南鎌倉には人がたくさん集まる何かがあるように感じます。
 当院に人が集まる理由の一つは独自のプログラムにあると思います。初期研修を終えたけれど専門が決まっていない医師がもう少し幅広く勉強してから将来を決められるよう、専門診療科のローテーションに整形外科や眼科なども入っており、救急で必要なことを1〜3ヶ月勉強してまた帰ってくるので、救急を目指してなかった医師も入ってきやすいのです。その体制を作られたのは以前部長を務めておられた京都府立救急教授の太田凡先生で、私が湘南鎌倉に来た2006年にはすでに確立されていました。また、週1回の専攻医勉強会では勤務時間としてオンザジョブ・トレーニングを開催しています。当院を卒業した医師が他施設へ赴任することも応援しています。当院で学んだことを旅立った先で実践し、地域医療を良くすることでそこからまた人がやってくるという経験が今までに何度もあります。

-救急医を志望する人は増えているのでしょうか?
 私の中では救急医に興味を持つ人は増えているという印象はあります。初期研修から救急に来る人はそれほど多くありませんが、コースに来る母数は少しずつ増えていると思います。一つは、ER型救急医学を志し、実践する人たちで運営される非営利団体「EMアライアンス」の存在も大きいでしょう。日本全国のER型救急医が参加するネットワークで、救急医のクオリティ上げる活動として教育コースなどを開いており、私も初期の頃からメンバーとして参加しています。日本の救急はこうあるべきだというような一つの方向を示すのではなく、自分に合う働き方や救急医のあり方を考えてもらうことを目標にしており、救急の楽しさや現場の情報をいろんな人たちから得られる場になっています。

「救急ジェネラリスト」を目指してほしい

現在抱えている課題があれば教えてください。
 重症患者に救急外来でECMOを導入する体制は当院ではまだできておらず、これからの目標として掲げているところです。一方で避けて通れない急性期在宅については、当院で4年間プログラムを受けた救急科専門医が院内の総合診療科に転科したため、一緒に取り組んでいます。そうしたことが経験できる機会を与えるのも当院の役割だと考えています。

-ご自身で勉強したいことや取り組もうとされていることはありますか?
 今後のライフワークとして、働き方改革で救急の受け入れがより厳しくなることが予測される中で、いろんな県がコロナで実現した広域医療連携のような急性期の医療体制を地域で話し合い、周りの病院を巻き込んだ体制づくりを、超高齢化社会を迎える都市部で実現したいと考えています。個人的努力で周辺医療機関と良好な関係を作るだけでは限界があり、情報共有が不可欠なテーブルに付くといった経験もこれからは必要になると考えています。私自身は問題を解決するマネージメントや、毎日目の前にある問題を一つずつ改善するのが嫌いではないですし、コロナの対応も通常の仕事の延長と考えているところがあります。現場感覚を失わないよう臨床や教育も続けながら、管理職として経営的にも医療体制が安定した形をどう作るかといったことを勉強したいですね。

-救急医を目指す人たちへアドバイスをお願いします。
 救急に求められるものは体制や時代で変わりますが、重症患者の対応など集中すべきところは集中し、全体を俯瞰してバランスを見ながら、患者や医師、看護師、技師、コメディカル、さらに会計や薬局を含め、病院に入ってから出るまでの動線を考えて指示を出せるのが救急医だと思っています。また、各専門医と対等に話ができるよう専門用語や手術適応の考え方、どのタイミングで医師を呼ぶべきかといった診療科や医師によって変わる細かいルールを知る必要があり、臨機応変に対応することも求められます。複数の診療科に跨がってすき間を埋める仕事ですし、とくに当院ではどこにいくべきかわからない外来受診患者を広く受け入れる姿勢が求められます。専門医には技術や知識では及ばない若手には、コンサルティングをしたら必ず1つ質問をしてディスカッションするように話をしています。そうした学ぶ姿勢を常に持つことが必ず次につながります。私が最近使う「救急ジェネラリスト」という言葉は、超重症の蘇生行為から子どもの発熱まで適切に診療できる救急医を意味していますが、そういう医師になることを目指してこの国の救急態勢を良くしてほしいと思っています。

-貴重なお話を聞かせていただきありがとうございました。

参考

特定非営利活動法人 EM Alliance(Emergency Medicine Alliance}
https://www.emalliance.org/