ER Collection で ”Dr.Goto 臨床研究コラム”を担当している後藤匡啓先生が、論文の読み方をテーマにした著書「僕らはまだ、臨床研究論文の本当の読み方を知らない。」を羊土社より出版されました。研究論文を読むことは抄読会などでやってきたけれど、なんとなく苦手意識を持ったままという人は少なくないのではないでしょうか。ここでは本書で伝えたかったことや出版にまつわる話など、後藤先生にいろいろ話を伺いました(聞き手:TXP Medical 株式会社営業部 今井)。

Interview:後藤 匡啓

福井大学医学部卒業後、同附属病院救急部にて研修。Emergency Medicine Alliance・Japanese Emergency Medicine Networkのコアメンバーとして活動し、JEMNet論文マニュアルを執筆。救急専門医取得後、ハーバード大学公衆衛生大学院修士課程に進学すると同時にマサチューセッツ総合病院救急部にて臨床研究に従事。帰国後は東京大学大学院臨床疫学経済学講座にて研究活動を行い、現在同講座及びTXP Medical社のChief Scientific Officerとしてデータ解析や臨床研究の指導を行っている。

これまで、多くの医療従事者は論文の読み方について学ぶ機会が限られていた

最初にまず本書を出版された経緯を教えてください。

 最初のきっかけは、後期研修医の時に参加していた若手救急医のための非営利団体「EM Alliance(Emergency Medicine Alliance)」(以下EMA)がweb上でジャーナルクラブを開催することになり、せっかくなのでその活動を本にして紹介したいと考えたことでした。そこで羊土社さんに相談したところ、まずはレジデント向けの月刊誌「レジデントノート」に連載スペースを用意するからそこで書いた文章をたたき台にして本にしましょうということになりました。
 ところが、半年ほど連載を続けてから本の執筆にとりかかったものの、なかなか上手くいきませんでした。本を出そうと思った後期研修医の頃は、自分では論文を読めている気になっていたのですが、振り返ると「分かったつもり」だったと思います。まさに後期研修医の時にありがちな「イキり」だったかと笑。まあ、今でもそうかもしれませんが。 専門医取得後に留学したハーバード公衆衛生大学院やマサチューセッツ総合病院の研究室、帰国後の東京大学大学院で臨床研究を体系的に学び、実地研修を行う事であらためて研究の奥深さがわかるようになりました。自分で研究を行う中で、非常に浅学だったなと実感したのは大きかったです。

なぜ論文の書き方ではなく読み方をテーマに本を書こうと思われたのでしょうか?

 論文を書くための本は数多くあるのに対して、読み方の本はまだ少ないなと思っていました。また、私は福井大学医学部附属病院をはじめ、亀田総合病院・西伊豆病院・東京都立小児医療センター・大阪府済生会千里救命救急センターなど各地の病院で研修しましたが、論文の読み方を体系的に教わったことはありませんでした。
 一般的に「医者は原著論文が読めて当たり前」と思われがちな気がしますが、そんなことは全くありません。医学部では公衆衛生などの授業で研究デザインや基本的な統計に関して学びますが、他の学部と異なり卒論を書くことがないため、在学中に臨床研究そのものにふれる機会がほとんどありません。病棟実習中に抄読会の担当に指名され、強制的に論文を読む必要に迫られて渋々読んでいたという人の方が多いと思います。近年では公衆衛生大学院などを卒業し論文の読み方を指導できる人も増えてきましたが、当時は抄読会においても十分に指導できる人は限られていたように思います。

 他にも臨床研究をテーマにした本はありますが、どちらかといえば研究デザインの話や、生物統計学の解説が中心なように思います。本書の特徴は広く浅く、「論文の全体像が見えて、なんとなく読める気がする」ことを目標にしています。研究デザイン・バイアス・統計に関する説明はあえてばさばさ切り落として簡略化しているので、疫学や統計を専門にする先生が読むと怒られるかもしれませんが、それこそが初学者に求められているものだと思っています。インパクトファクターなどのやや世俗的な話や、みんなが主要誌を読む理由、そしてどの辺を切り落として読んでいるか?というのを明示した本はあまり無かったのではないでしょうか。
 また本書では意図的に個人的な経験ベースでの話を盛り込んでいるので、エビデンスや教科書を重視する人には不満点もあると思います。でもそういった教科書が読みたければそういう本を読めば良いと考えています。初学者が求めるものは「ある程度研究してきた人がどう思っているのか?」という、臨床でいうところのクリニカルパールであり、そういうポイントをできるだけ込めたつもりです。ついでに言うと本書の内容は基本的ではありますが、臨床医が日々流し読みをしているレベル感は本書のレベルの範囲内だと思っています。必要があればもっと深く読むけど、さらりと読むにはこのレベル感、というイメージです。

そもそも抄読会は何のために行われているのか?

そもそも既存の論文の読み方やガイドラインはないのでしょうか?

 あります。論文は批判的に読むように言われる事が多いです。結果が誤った方法で導かれていたら患者さんに不利益を生じる可能性があるからですね。論文を批判的に読むためにチェックリストを用いるグループもあると思いますし、CONSORTやSTROBEなどの論文報告ガイドラインに沿って読むのも良いでしょう。本書ではあえて触れませんでしたが、これらの取り組み自体は大事だと思っています。
 一方で多くの初学者には「論文は批判的に読まなければいけない」という思い込みもどこかにあると思います。私はずっとこの点をなんとかしたいと思っていました。批判的吟味を行う前に、もっと論文を知るところから始めるべきではないかと思っていたからです。「このように読まないといけない」「批判的であれ」という考え方に束縛されるよりも、「とりあえずこういう事が書いてあるから読んでみようよ」という気持ちを込めています。

ー批判的吟味をしなくて良いのでしょうか?

 批判的吟味をしなくていいということでは全くありません。批判的吟味より先に論文を嫌いにならないこと、なんとなくでもいいから読めるようになる事の方が大事だということを強調したいのであり、その次のステップが批判的吟味だからです。ただ、一口に批判的吟味と言ってもそのレベルは様々です。多くの医療者は論文を読むときにまずは「PICO・PECO」を把握しようと教わるように思いますが、「これはどこまで意味があるのだろうか?」とずっと思ってきました。

 臨床研究疑問の構造化自体は大事なことで、臨床の疑問があり、それを構造化して文献を探すのならPICO・PECOを意識するのは良いと思います。一方で自分に臨床疑問がないのに、目の前の論文にPICO・PECOを無理に当て嵌めるのは、批判的吟味の手順ではあるのですが、若干手段と目的が逆転しているような印象を受けなくもないです。世の中に氾濫する論文に対してPICO・PECOが当てはまらないことは多々あり、初学者がPICOを無理やり論文に当てはめようとして混乱しているケースも見かけます。そして論文からPICO・PECOを抽出しておしまい、というのでは、あまりにも情報量が少な過ぎてそこから先がありません。
 一方でSTROBEなどの報告ガイドラインは日本語版であってもかなり専門的であり、初学者が一読しても正直訳がわからないと思います。これは執筆者や査読者が把握していれば良い部分でもあり、初学者がこれに沿って読むと「これでいいのだろうか…」「この部分はどう考えればいいんだろう」となるでしょう。また多くの資料では研究デザインで分けて論文を読もうというのが一般的なように思いますが、そもそも研究デザインがコホート研究、ケースコントロール研究..、と明示されていない事が多々あり、迷子になる人が多いと思っています。そこで「PICO・PECOを抽出しておしまい」というプロセスと「ガイドラインに沿った読み方」のちょうど中間にあたるのが本書ではないかと思っています。

 また、論文を読むときにチェックリストやガイドラインに当てはめることが批判的吟味なのではなくて、研究背景を踏まえた上で、研究目的を知り、その内容を考えることが大事です。チェックリストやガイドラインは大事ですが、あくまでガイドであるという事を理解した上で、自分で考えて読めるようになって欲しいと思います。


-項目ごとに数ページで内容がまとめられており、どこからでも読めるようになっているのもそのためでしょうか?

 
 それもありますが、自分で書いていても一章あたりの分量が多いと辛いなと思ったからです笑。必要なところだけ後から読み返しやすいようにはしていますが、最初から順番に全部読んだもらったほうが理解は深まると思います。それでも分量が多く、途中からはきついという声も頂いたので改訂版では改善したいですね。ちなみに指導医の中には論文は必要なところだけ読めばいいと言う人がいますが、論文には基本的に無駄な部分はありません。決まった構造があるので最初に体系的に読んで全体を把握しなければいつまでたっても全体が理解できないままに終わってしまいます。ポイントだけ教えてもらうのは分かりやすいようで根本的な理解につながらなくなります。全体を理解した上でポイントを押さえて読むのと、ポイントしか知らずに読むのは全く意味が異なります

そもそも抄読会は何のために行われているのか?

ー抄読会は研修医が最も辛い経験の一つであるという声をよく耳にするのはどうしてなのでしょうか?

 抄読会やジャーナルクラブを開催する理由や目的が説明されず、達成感が得られないまま「これまでやってきたから」と続けられている点があると思います。読み方を教わらないまま無理やり内容をまとめて発表するのではダメ出しされるのは当然で、正直理不尽なようにも思います。
 逆に指導者が熱心なところだと単純に負荷が大きすぎるというのがあります。私が所属していた福井大学の救急部では論文を100本読んでまとめるというジャーナルクラブを行っていましたが、研修医みんなが恐れ慄いていたように思います。終わってみると論文に触れるいい機会だったし勉強になったなあ、と実感するのですが(笑)。
 今は論文の情報をいろんな人がSNSで発信していますし、抄読会の内容をそのまま公開しているところもあります。おそらく他の病院が公開しているジャーナルクラブの資料を見て「自分たちと全然違う…!!」と思った先生は少なくないと思います。眺めている範囲では、正しく手法論まで含めて評価している、すなわち狭義の批判的吟味を行っている抄読会よりも、過去の論文との位置付けや比較を中心に行なっている抄読会の方が多い気がします。背景知識をつけるためのnarrative reviewのような感じですね。
 正しい抄読会・ジャーナルクラブが何かは分かりませんが、あまり批判的吟味を意識しすぎず、各施設のレベルと維持可能性を踏まえた上で無理なく学べることの方が大事だと思います。そして色々な施設と情報をシェアしていくのも良いのではないでしょうか。

ー本書を読めば論文は簡単に読めるようになるのでしょうか?

 残念ながらそれは本書の目的ではありません。初学者の先生には「ちゃんと読もう」とはあまり思わないで欲しいです(笑)。もちろん向学心があってそう思うのは自然ですが、かなり質の高いメンターがいないと困難です。私は同年代の医者の中では比較的臨床研究に詳しい方ではないかと思っていますが、正直、研究をすればするほど自分が正しく論文を読めているのかどうか自信がなくなってきました。最近は疫学や統計学の本などを改めて復習しているのですが、理解が不十分だった事を知ったり、「これはどう考えればいいのだろう」と思うことが増えてきました。臨床も研究も知れば知るほど奥が深いものなので、あくまで導入書として考えて欲しいです。お勧めの本書の読み方は、「はじめに」「おわりに」を読んでから、次にDr.Gotoの一言を流し読みしていただくのが良いと思います。その中で興味のあるところを読んでいただければ。そして何度も繰り返しますが、論文はちゃんと読むことも大事ですが、「楽しんで読むもの」という側面を知って欲しいです。研究論文はサイエンスであると同時に、知的好奇心を満たし、次に繋がっていくものだからです。

-論文を読めるようになることは、書けるようになることに通じるところがあるようにも読めました。

 そこを汲み取ってもらえて嬉しいです(笑)。実は、書き手が何を考えて論文を書いたのかを理解できるようになりましょうというのがもう一つのコンセプトであり、それがわかれば自分は論文のどこが読みたいのかも見えてくるようになります。論文を読むための本ですが、いざ自分が論文を書くときにも読んでもらえば、自分の研究が整理されるのではないかと思っています。
 個人的意見ですが、本当に論文を深く読むなら論文を書かないと読めないと思っています。論文を書かずに論文を読むのは、プロ野球の経験がない人がプロ野球の試合を見てどうこう言うのとあまり変わりはないでしょう。研究には自分が研究していないと見えない事があり、それでも自分が行ったことのない研究は分かりません。そしてこの点は私だけでなく、世の中のSNSやブログ、あるいは書籍などで論文を紹介している先生方においても、おそらく当てはまる部分があると思います。つまりその人が臨床研究論文をどこまで深く読んだ、あるいは批判的吟味をした上で紹介しているのかは私たちにはわからず、「この先生が紹介しているから」という理由だけでは信頼に値するかどうかは不明だと思います。

-今後、続編や他のテーマで本を出される予定はありますか?

 今のところ考えていませんが、本来発展編として書く予定だったもののストックがありますし、Letterの書き方などは書いていたものの泣く泣く削除した部分でもありますので、機会があればという感じでしょうか。あまり似たようなテーマで本をたくさん出したくないという気持ちもあります。それなら本書を改訂していきたいですね。
 私が研修医のときに大変お世話になった福井大学の寺澤秀一先生が書かれた「研究医当直御法度(通称赤本)」という本があります。研修医の時は「なるほど」と読んでいたものの、後期研修医のときには、正直「当たり前の事しか書いていないな」と思っていました(笑)。でもそこからさらに臨床経験を積んで失敗を重ねてから読むと「これに書いてあった!やっぱりいい本だなあ」となった記憶があります。このように、読むステージが変わるとその度に発見がある、そういう本になってほしいと思っています。
 出版社のサイトでは本書の一部が公開されていますので、まずはそこだけでも読んでもらえるとうれしいですね。

ー貴重なお話を聞かせていただきありがとうございました。

参考

「僕らはまだ、臨床研究論文の本当の読み方を知らない。」後藤匡啓/著,長谷川耕平/監 出版:羊土社
https://www.yodosha.co.jp/yodobook/book/9784758123730/