島根大学医学部の救急医学講座に教授として最年少の若さで就任された岩下義明先生に、救急医療をめざしたきっかけや現在の活動について、有志として参加されているECMOnetや以前から高い関心を持っている地域医療への思いなども含めて、いろいろお話を伺いました。

Interview:岩下 義明

島根大学医学部救急医学講座 教授。埼玉県出身。島根大学医学部卒業後、初期研修先に島根県立中央病院を選択。その後、北里大学病院救命救急センター 病棟医、山形大学病院救急部 助教、東北中央病院循環器内科 医員を経て、2011年から三重大学医学部附属病院救命救急センターで診療・研究・教育に従事。6年ほど在籍した後に、非常勤医師として1年間活動し、2019年10月より現職。

10年以上前から日本のECMO教育に取り組む

ー救命医療の臨床医として10年以上活躍され、卒後13年目で教授に就任されました。現在の仕事内容を教えてください。
 教授に就任して1年以上が経ち、現在の仕事は、臨床、研究、教育の3つが大きな柱ですが、病院での救急診療業務が大きなウェイトを占めています。就任時は、大学全体の管理運営をした上で研究や教育を行い、選手兼監督を務めるプレイングマネージャーのように忙しい時だけ”代打オレ”で臨床業務を手伝うぐらいのイメージでしたが、救急医学講座に所属しているのは私を含めて2人なので、実質的には臨床業務が大きな割合を占めている状況です。

ー臨床業務が忙しい理由はCOVID-19も影響しているのでしょうか?
 島根県は今のところCOVID-19の患者数は少なく、むしろCOVID-19の影響で患者の受診が減っています。例えば、冬場に多い風邪やインフルエンザ、胃腸炎の救急外来がほぼなくなりました。ですが、COVID-19の患者が運ばれてきた場合に備えて、救急外来のみならず病院全体で対応する仕組みを作らなければならない。今もこれから始まるワクチン接種のスケジュールや急変患者が出た時にどうするかを考えるといった仕事があります。もし都市部のように重症患者の対応にも追われる状況であったらもっと大変だったかもしれません。

島根大学 医学部
救命救急センター

ーCOVID-19の対応で使われるECMOに早くから関心を持たれていましたが、それはいつからですか?
 ECMOは2009年にH1N1型インフルエンザが流行した時に世界中で使用されました。英国では国策でECMOが使える病院を限定し、患者を集約させて治療して結果を出しました。それに対し日本は全国あちこちの病院で導入され、1施設当たりの症例数が非常に少なく、使用成績が極めて悪い状態になってしまいました。
 私自身は、重症患者に特化した北里大学に入った時に初めてECMOの患者と出会いました。重篤な呼吸不全患者がECMOを使用して劇的に改善したのを目の当たりにし、この治療にエビデンスが無いのは絶対におかしいと感じ、ECMOについて勉強するようになりました。海外で開催されているECMOの学会に毎年参加し、同じく興味を持つ日本の医師らと、知識や技術、管理方法などを日本へ広める活動をこの10年ほど続けてきました。
 COVID-19に関しては、重症の肺炎から非常に重篤な呼吸不全をきたすのでECMOの適応があるかもしれないという話を仲間と2019年末頃にしていました。もしそうなった場合、何もせず状況を手放しに見ているだけではH1N1インフルエンザの時の二の舞いになりかねないと考え、ECMOの正しい使い方や治療方法などを啓蒙するECMOnetの仕組み作りを20年2月に始めました。具体的には相談窓口を設け、利用を支援する活動を行っており、私は電話相談や学術面を含めたサポートをしています。ちなみにECMOnet は5月15日から厚生労働省事業として正式に活動しています。

COVID-19の治療にECMOが必要になると考えた有志により立ち上げられた「ECMOnet」

ー今回の影響で若い医師や学生の間でもECMOの関心が高まったのではないでしょうか。
 新しいものには若い人は興味を持って飛びつきやすいもので、ECMOの関心は高まっていると思います。ただし、COVID-19の治療では病院の感染対策や県全体での対応を考える必要があるので、英国のように患者を集約するといった考え方もした方がいいかもしれません。

興味があるものは何でも楽しんで取り組み続けられる

ー大学教授に就任した感想はいかがですか?
 大学に来て若いうちに教授になってよかったと思うのは、歳が近いせいか若い人たちがよく話しかけてくれることです。学生や多職種の人が教授室を気軽に訪ねてきたり、私の救急外来当直の時に医学生が大学の実習とは別に志願して研修に来たりしています。また、専門医取得後に大学病院で研究を含めた仕事をするか一般病院で臨床業務に打ち込むか悩むことがあります。そこで両方の経験からアドバイスしたり、興味のある分野の人を紹介したり、可能性を引き出す手伝いをしています。さらに今の大学病院は昔と違い、臨床業務もしっかりやる方向に進んでいるので逆に研究がやりづらくなっており、指導医が見つからないという話も耳にします。コメディカルなどからも一緒に研究をやりたいといった相談や、大学院に入りたいなどの相談も受けています。

ー先生はどのような方法で勉強されているのでしょうか?
 中学や高校の時から新聞で見つけた面白そうなセミナーに参加したり、高校では英国短期留学ツアーを見つけて参加したりしていました。たまたま目に留まって興味が持てたことやってきただけなので、特別なことをしているイメージはありません。
 学会だと国内で参加するのは日本救急医学会、日本集中治療医学会、日本呼吸療法医学会です。海外だとベルギーのブリュッセルで毎年開催されるISICEMEuroELSOに毎回参加しています。いずれも集中治療のエキスパートが世界中から集まって議論が交わされます。規模が大き過ぎないので有名な先生とも直接話しができますし、留学を考えていた時に学会でいろいろな先生に話しかけたりしたこともあります。日本からも熱心な人が集まり、熱い議論が交わされるのも醍醐味の一つです。今は学会もオンラインで開催されるので参加しやすくなりましたが、休暇を申請しにくいので集中できないとう問題はありますね。

学会に参加する仲間たちとの記念写真

ー現在取り組んでいる論文や注目していることはありますか?
 現在取り組んでいる研究は大きく3つあります。1つ目はECMOnetの取り組みのデータをまとめて論文を書く作業。2つ目は地域の中小病院の人工呼吸管理の現状調査。3つ目は医療機器の開発支援です。
 2つ目の人工呼吸器の現状調査は、日本ならではの医療体制から必要だと考えています。世界的には人工呼吸器を着ける患者を集中治療室以外で診ることはほとんどないのですが、日本は集中治療室が無い地方の病院でも呼吸器を使わないといけない。昔のシンプルな人工呼吸器なら扱えたけれど、最近は機器が高度化して新たな知識がないと使いこなせないという課題があります。そうした状況を改善しようと7〜8年前から、以前の仕事仲間で人工呼吸教育専門のアメリカ人医師と一緒に、人工呼吸器の教育コースを毎年開催しています。同じ内容を三重大学で一度実施したところ良い結果が出たので、その結果をまとめた論文を数日前に発表したばかりです。
 3つ目の開発を支援している医療機器は、肺の電気抵抗を測定してそれを画像化するEIT(Electrical Impedance Tomography)という機器です。世界では複数の会社が開発していますが、日本やアメリカではまだ認証されておらず、いまだ一般的ではありません。これを日本で開発しているベンチャー企業「POSH WELLNESS LABORATORY」の手伝いをしています。会社を立ち上げた根武谷 吾先生と北里大学に在籍時に知り合いになったのがきっかけです。当時、データを取るため病院に機器を持ち込んでいたのを見て、何をしているのか気になって話を聞いたところ、非常に面白いことだとわかり、10年近く協力を続けています。
 また、学会論文や雑誌の寄稿以外にも、このような自分が面白いと思ったり、興味を持ったりしていることを少しずつ発信していこうとしていて、とりあえずフェイスブックに個人的な投稿するところから始めています。

地域に開かれた大学病院を作りたい

ー地域医療にも関心を持たれていると聞いていますが、何かきっかけがあったのでしょうか?
 地域医療に近い家庭医療の考え方は、私が学生の頃がちょうど始まった時期でした。学生時代にACLSのワークショップをやっていましたが、その時に一緒に活動していた仲間の多くが家庭医療をやっていて、彼らが発信しているのを横目で見て、自分も近いことをやりたいという思いが源流にあったのかもしれません。
 三重大学に在籍中も、ECMOの患者を診るのも楽しかったのですが、同時に同じ病棟にいる肺炎で認知症の90歳のおばあちゃんと話をするのも楽しいと思っていました。私の中ではどちらか一方だけが救急医療であるという感覚はありません。救急外来で大騒ぎした急性アルコール中毒の患者がこのあと家に帰ったらどうなるのかが普通に気になりますし、地域医療に関心があるのも私にとっては自然な流れなのです。現状では具体的な活動はあまりできていないのですが、以前に実施して良い結果が得られた一般医師向けの人工呼吸器のワークショップを島根県でもやろうとしています。

ー医療関連以外での活動にも力を入れているそうですね。
 サイエンスカフェという誰でも参加できる会を主催しています。先日はECMOについてわかりやすく話しましたが、題材は何でもよくて、大学と地域の人たちがつながる窓口を作りたい。地域の住民に開かれた大学病院を作ることは、私がやるべき仕事の一つだと考えています。そういえば、医師になりたいと思った理由の中に、一般の人たちにもっと医療知識を広めたいというのがあったのを今思い出しました。

医療に対する一般知識を広げる活動も行っている

ー最後に同じように医師を目指そうと思っている人たちへアドバイスをお願いします。
 救急医療は一分一秒を争う状況の中から重症患者を劇的に救うのが魅力であり、アピールポイントでもあります。ですが、私の考え方としては、医師は目の前にある病気を治すだけではなく、なぜこの患者が運ばれてきたのか、なぜ何度も救急外来にやってくるのか、その背景にある悩みや社会、さらには時代背景にまで思いを馳せてほしいというのがあります。思いを馳せたところで何か解決策があるわけではないし、具体的なアイデアがあるわけでもないけれど、患者の痛みに寄り添って助けてあげたいと思う医師が一人でも増えれば、救急医療はより良くなるのではないでしょうか。医療の原点は、痛いところに手を当てる“手当て”であり、薬や治療で治せない患者にもまず寄り添うことが大事なはず。そういう医師を作っていきたいと考えています。

ー病気以外にも視野を広げて考えることが医師には大事だということですね。貴重なお話をありがとうございました。

参考

島根大学医学部救急医学講座 就任あいさつ
https://suh-er.jp/message/