寄稿:添野祥子

群馬大学医学部卒業後、自治医科大学附属病院で初期研修。白河総合診療アカデミーで後期研修。2018年、日本プライマリ・ケア連合学会で日野原賞受賞。現在TXP Medical社の社内研究者としてプライマリ・ケア領域の研究を行っている。


筆者コメント(添野)

呼吸数(respiratory rate)は臨床的に重要であり、多くの医師・看護師が初期評価で重要視していると思います。しかしその一方で測定に時間がかかることなどから、多忙な臨床現場では軽視されがちです。また、呼吸数は主訴と関連付けて評価されるものであるにも関わらず、「呼吸数が20以上であれば注意が必要」などのようにYes/Noの2区分評価をされがちでもあります。そこで本研究では16,956人の救急科受診者を対象とし、呼吸数を連続変数として臨床的なアウトカム(入院および人工呼吸器使用)との関連を示しました。全体としては呼吸数と臨床的アウトカムにはU字型関連があり、従来の20以上・未満といった2区分的評価が望ましくないことが分かります(臨床的な体感とも一致します)。また、主訴別の解析では、主訴が「発熱」「呼吸困難感」の場合は線形、主訴が「意識障害」の場合はU字型の関連があり、主訴に応じたアセスメントを形にすることができました。

主訴によって呼吸数とアウトカムの関連が異なるというのはある意味「当然」であるかもしれませんが、実はこれをちゃんと示した論文は過去にありません。その理由は、構造化された主訴と紐づいたバイタルサイン 、そして患者アウトカムまでが繋がったデータベースの構築が困難であったからです。本研究ではNext Stage ERによる構造化された救急外来データベースを用いることで、主訴別の解析を行うことができました。呼吸数は現在ではウェアラブルデバイス等の出現により、測定が容易になっています. 本研究は呼吸数の臨床的アセスメント並びに将来的な重症化予測モデルを構築する際に重要になると考えています。

論文概要

Initial assessment in emergency departments by chief complaint and respiratory rate

Soeno S, Hara K, Fujimori R et al. J Gen Fam Med 2021 https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/jgf2.423

本研究の目的

呼吸数はトリアージや患者の重症度評価において重要なバイタルサインである。現場の臨床医は呼吸数を主訴と組み合わせて評価している。例えば、呼吸数が30回/分と高値の場合、主訴が発熱の場合は敗血症などの重症疾患を想起するが、主訴が頭痛の場合は過呼吸発作など非緊急疾患を想起する。2 従って臨床現場において呼吸数を単に評価するのではなく、主訴に応じて評価をすることが重要であるにも関わらず、呼吸数と臨床アウトカムが主訴によってどう異なるかを示した研究はない。本研究では、救急外来で最も頻度の高い5つの主訴(発熱、息切れ、精神状態の変化、胸痛、腹痛)に応じて、呼吸数と臨床転帰との関連を検討した。


対象と方法

本研究では、2018年4月から2019年9月の期間に日立総合病院に救急搬送されたすべての成人患者を対象とした。アウトカムは入院、人工呼吸器使用とした。 Next Stage ERから、病着時の年齢、性別、主訴、バイタルサイン、病歴を取得し、DPC (Diagnosis Procedure Combination) からアウトカムを抽出した。呼吸数とアウトカムとの関連はrestricted cubic spline regression modelとロジスティック回帰モデルを用いて評価した。連続変数の欠測値の補完にはランダムフォレストモデルを用いた。

結果と考察

対象患者16,956人のうち、4926人(29%)が入院、448人(3%)が人工呼吸器の使用を必要とした。呼吸数と入院との間にU字型の関連が認められ、例えば、呼吸数16回/分を基準とした場合、呼吸数32回/分のオッズ比は6.57 [95%CI 5.87-7.37]であった。呼吸数と入院もしくは人工呼吸器使用との関連は主訴によって異なっていた。主訴が「意識障害」の場合はU字型(呼吸数12回/分のとき、オッズ比2.63[95%CI 1.25-5.53])だが、主訴が「発熱」「息切れ」の場合は、入院はRRの増加とともに単調に増加した。

(1)ABCDEFバンドルの実施率について

今後の展望

今回、主訴に基づいた分析を行ったが、もっとも主な主訴を用いたため、主訴は相互に排他的ではなかった。そのため、主訴が複数ある患者については正しく評価できていない可能性がある。今後は機械学習により複雑なテキストデータの解析が可能になるため、主訴、病歴を含めた重症度予測スコアの開発が進んでいくと考えられる。

参考文献

  1. Cretikos MA, Bellomo R, Hillman K, Chen J, Finfer S, Flabouris A. Respiratory rate: The neglected vital sign. Med J Aust. 2008 June 2; 188: 657–9. doi:10.5694/j.1326-5377.2008.tb01825.x
  2. Kenzaka T, Okayama M, Kuroki S et al. Importance of vital signs to the early diagnosis and severity of sepsis: Association between vital signs and sequential organ failure assessment score in patients with sepsis. Intern Med. 2012 Apr 15; 51: 871–6. doi:10.2169/internalmedicine.51.6951