「令和2年規制改革推進会議 第5回医療・介護ワーキンググループ」にて、「議題3:救急医療が真に必要な患者に提供される仕組み」というテーマで参加された国際医療福祉大学救急科、遠藤拓郎先生(会議出席時は聖マリアンナ医科大学救急医学講座助教・同大学病院救命救急センター医長、現在は聖マリアンナ医科大学救急医学講座研究員を兼任)にインタビューしました。全2回に分けてお届けします。前回は、「イギリスにおける重症度に応じた搬送の仕組み」についてご紹介しました。2回目にあたる本稿は「国内prehospital NEWS活用の有用性」についてご紹介します。

Interview:遠藤 拓郎

国際医療福祉大学成田病院救急科講師/聖マリアンナ医科大学救急医学講座研究員
名古屋大学卒。マッキンゼー&カンパニー、関東労災病院救急総合診療科、聖マリアンナ医科大学救急医学講座助教・同大学病院救命救急センター医長を経て現職。
日本救急医学会認定救急専門医、日本集中治療医学会 集中治療専門医、日本内科学会認定内科医、厚生労働省臨床研修指導医、ICLSディレクター、FCCSアソシエイトインストラクター、JATEC・JPTEC プロバイダー、川崎DMAT、病院前医療体制における指導医等研修(上級者)修了。ヘルスシステムの観点から救急医療の質改善に取り組んでおり、近年は在宅医療と救急医療の円滑な連携、Prehospital Early Warning Scoreについての研究に重点的に取り組んでいる。

日本の救急搬送の課題と臨床研究で目指すこと

ーコンサルティング会社ご出身の先生が、なぜ日本の救急搬送システムに課題意識を持ったのか、また現在、目指していることを教えてください。

世界の医療制度および保険制度の在り方を検討するプロジェクト
 救急搬送システムに、課題意識を持ったきっかけですか。2006年から2009年までマッキンゼーで世界の医療制度および保険制度の在り方を検討するプロジェクトがありました。日本の医療システムの特徴を客観的に認識する機会となったわけですが、定量的にどのような特徴が各国はあるのか?、基礎データを世界の調査機関から可能な限り集めて、定性的な情報を検証する作業を行いました。その過程は、非常に忍耐の必要な仕事でしたが、そこで見えてきたことの一つが、搬送システムの日本のユニークネスでした。各国の医療・保険システムは、それぞれの国の宗教、価値観等が複雑に絡み合い積みあがって構築されているわけですが、どうしても弱みが生じてしまい、その弱みを強みでカバーするという事を行っています。あまねく広く均一な医療を提供するという事を目指す国々との間で、救急搬送の仕組みに関して比較した時に、日本の搬送システムはユニークであり、見方によっては改善の余地があるという認識はその時に明確に持ちました。とはいえ、その指標を重んじれば、こちらの指標が犠牲になるというバランスなので、一概に良し悪しは言えません。それでも一定の方向へ改善を積み上げて、総じてシステムを改善していく必要があるのではないかと思います。

臨床研究を通じて政策反映のためのエビデンスを示していく
 病院に戻った後も、救急外来で個別症例での対応をする中で、そのことが気にはなっていて、救急要請されてから病院到着までの患者状態について何かモニタリングする指標があれば現状把握の深堀が可能であるが何か指標がないものかと思っていました。それで初めて介入策の評価ができる。たどり着いたのが、早期警告スコアEarly Warning Scoreでした。
 聖マリアンナ医科大学の藤谷教授が全国に普及活動をされている院内患者の重症化を未然に防ぐためのスコアである早期警告スコアEarly Warning Scoreが、院外でも有用であるという報告が2015年以降に出てきていたのです。Rapid Response Systemの中で使われてきたEarly Warning Scoreを地域全体に広げることで、急変対応という視点で医療の質を病院の前段階の搬送開始の時点から一気通貫でとらえることで、搬送活動の効率化が転帰に紐づくのではないかと思い、研究テーマにしました。
 今回、呼ばれた規制改革推進会議では「救急医療が真に必要な患者に提供されているのか」という議題でしたが、資料作成を藤谷教授、平教授と行う過程で、その議題は「日本国内で、救急搬送に関しての本来のあるべき形が達成できているのか」という質問に置き換えられると考え、そのような構成での資料作成としました。「高齢化に伴い救急搬送が増加し、病院到着までの時間が延長」「重症患者でも病院への問合せ回数が複数回あり、迅速にたどり着けていない」という現状を考えると、この問いに関しては、残念ながら、必ずしもイエスとは言い切れないのだろうと認識せざるを得ません。現場の人間としてそういう事もはばかられますが、現在の立ち位置を把握したうえで、日本のシステムの強みを大切にしながらも、外国事例をヒントとして、臨床研究を通じて国内での応用の可能性を検証し、政策反映できるようなエビデンスを作っていくことが大切だと思っているのでそのあたりの資料も以下にご紹介しています。

日本でのprehospital NEWSの有用性を検証

「令和2年規制改革推進会議 第5回医療・介護ワーキンググループ」に参加するきっかけになった2019年10月第47回日本救急医学会総会で発表された演題の骨子はこちらです。英文投稿した論文とほぼ同じ内容です。

本研究の目的

救急隊接触時バイタルから算出されるプレホスピタルNEWSの死亡予測における有用性の検証

方法

■対象症例
2017年4月から2019年3月に当院搬送
救急隊接触時バイタルおより外来転帰がわかる症例
■除外症例
病着時死亡、転院、16才未満、妊婦
■アウトカムの設定
搬送後の死亡について:24時間/48時間/7日/30日死亡を採用
■解析方法
基礎解析として
ーNEWS点数別の死亡率の算出
多変量二項ロジスティックス回帰分析
ーNEWSを説明変数、死亡を目的変数としてAUCの算出

考察と結語

  • 日本でもprehospital NEWSの死亡予測と外来転帰予測における有用性が示された
  • 人種/人口構成/プレホスピタルで可能となる医療行為が異なる環境である日本においても、その有用性が示唆された事はprehospital NEWSの汎用性の高さを示唆する
  • 本スコアは重症度判定が可能であるのみにならず、救急隊から病院への”迅速かつ確実な伝達”に役立つことが考えらえる
  • 前向きの地域網羅的取り組みにつなげていく

終わりに

 政策を議論するためには現場の定性的な話はもちろん、定量的な検証も必要だと思います。コロナ疑似症例の搬送に関しても、車内での重症化を現場隊員が認識しているのにその声が応需依頼病院に切迫感のある状況として伝わりきらないのか、結果として応需先が見つからないで、更に重症化してしまう不幸な事象が続いています。そういった医療圏が、残念ながら複数で出てきてしまっています。
 この事象からも、車内患者の重症化、そのトレンドを客観的に評価するシステムが迅速に検討されてよいのだろうと認識を持ちます。現場でやれる工夫を積み上げていき、それが普及されて然るべき判断が各所でなされれば、迅速に政策に反映されるものと認識していますので、現場の医療者としての取り組みを継続していきたいと思います。

参考文献

BMJ Open . 2020 Jun 15;10(6) 
Efficacy of prehospital National Early Warning Score to predict outpatient disposition at an emergency department of a Japanese tertiary hospital: a retrospective study Endo T, Yoshida T, Shinozaki T, Motohashi T, Hsu HC, Fukuda S, Tsukuda J,Naito T, Morisawa K, Shimozawa N, Taira Y, Fujitani S.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC7299041/

内閣府「規制改革推進会議」 提出資料 資料3
内閣府「規制改革推進会議」 議事録P34〜P43

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