介護事業所特化のオンライン医療相談事業を行っているドクターメイト株式会社代表取締役の青柳直樹先生のインタビューです。介護施設での医療需要が高まる中で、どう介護施設と病院が連携していくか?など、想いやビジョンをお伺いしました。

Interview:青柳直樹

ドクターメイト株式会社 代表取締役。
1988年千葉県生まれ。2013年千葉大学医学部を卒業、千葉市立青葉病院にて初期研修修了。2016年頃から介護現場の医療相談を受ける活動を開始、2018年4月にドクターメイト株式会社代表取締役として活動を本格化、現在に至る。

介護施設向けのオンライン相談事業の立ち上げ

ドクターメイトとは

介護事業所特化のオンライン医療相談を提供しています。2018年に介護施設専用のオンライン医療相談サービスを提供開始し、2020年には夜間オンコール代行サービスを提供開始。現在は、オンライン医療相談と夜間オンコール代行を組み合わせた24時間医療アクセスとして、介護事業所(特養、老健、介護付有料老人ホーム、認知症型グループホーム等)にサービス提供をしています。現在、26都道府県、91の介護事業所で利用されています。(2021年1月現在)

ー開発の背景とか、なぜこれやろうと思ったか、教えてください。

僕が千葉県の二次救急の病院で働いていた時に、介護施設からの外来や、入院が非常に多くて、「なんでこんな状態で連れてきたの?」とか、逆に「なんで今軽症なのに連れてきたの?施設の中で見れないの?」みたいなものも結構ありました。僕は、その時は介護施設は、病院の延長みたいな感覚の認識で「ドクターも一応往診医でいるし、ナースもいるけど、なんで?」みたいなところが正直な感想でした。それで、気になって自分で介護施設に話聞きに行ってみると、「医師は1週間のうちで半日だけしかいない」とか、「昔は歩いてる人がメインだったけど、今はもう9割方自分で歩けない人で、病気も1人の人がいっぱい持ってるし、昔と同じように、一部のドクターだけじゃ診られないんだ」と言われました。だから、仕方なくこういう状態になっているということを聞いて、それなら、病院に来る前に相談できる遠隔ツールがあれば、もっと事前に防いだりとかできるのではないかと思ったのがきっかけです。

ー問題意識を持って、そこから起業に至る経緯を教えてください。

最初は、仮説検証で、介護施設に「僕とLINEでやりとりしましょう」と直接声掛けました。僕は皮膚科なので、「日々の医療的な悩みを送ってください」と言って、スモールで始めてみたら、すごい喜んでもらえたんです。実際に、それで「皮膚科の通院とか減りました」とか、「対応の仕方が分かってスタッフさんの不安が取れました」みたいな声を非常に多くいただきました。介護施設向けにこういうサービスがあったら世の中の役に立つなと思って、そういうサービスやっている会社があったらジョインしてやりたいと思ったのですが、調べてみたら無かったんです。それで、1年間くらい大学に残るか、事業を立ちあげるかを悩んでました。日々、大学にいて介護施設からの患者が来たら、もやもやしながら過ごしていて、この領域をやってる人がいないんだったら、自分がやらないと誰もやらないんだろうなと思ったので、事業を作ることを決断しました。

ー事業開発をするにあたり、次はどんなことをしたのでしょうか?

・システム作り
まずはChatworkを利用して始めました。そうすると、チャットだけだとデータがストックしづらく、相談内容をレポートにまとめたりしづらいので、次は施設ごと、患者ごとのデータベース作る必要が出て来ました。そこから、サイボウズ社のKintoneを組み合わせました。当時チームの人数も少なかったので、既存サービスをまず重ね合わせて、自分たちがやりたいサービスを作ってきました。

・相談乗る側のドクター集め
割とリファラルで集めて、内科、皮膚科、精神科、整形など、いろんな先生が関わってくれています。意外な利点ですが、関わって頂いているドクターには「他の医師がどういう回答をしてるのかが見れるのがすごい勉強になる」と言ってもらえて、やりがいを感じてくれて嬉しいです。

オンライン医療相談の体制と利用状況

ーどんな相談内容が多いか、教えてください。

相談内容は、圧倒的に皮膚科が多いです。写真を送れるから聞きやすいのだと思います。皮膚科に関していえば、導入施設の通院が70%減りました。次が精神科で、精神科は、薬の内容が多いですね。「今こういう薬を飲んでるんですけど、すごく寝ちゃいます」とか、「興奮しちゃいます」とか。その次の手として、お薬加えるとか減らしたりとかのアドバイスがほしいというような質問が多いです。精神科もドクターメイトの導入で53%も通院が減りました

相談者は看護師さんと介護士さん、どちらが多いですか?

僕たちは最初は介護士さんを想定していたんですが、看護師さんの方が多いですね。施設には看護師さんがいるので、看護師さんを飛ばして、介護士さんがドクターに相談するっていうのは、難しいのだと思います。

ー施設側にも担当の嘱託医がいると思いますが、連携はどうなっているのでしょうか?

施設によっては、我々が施設とやりとりしているチャットの中に、施設側の嘱託医が一緒に入っていたりします。だから、施設の先生としても、例えば自分の専門外の皮膚科症例だったら、「じゃあ、ドクターメイトさんにちょっと聞いてみてよ。その回答見てから、その回答見て自分から処方出すからさ。」みたいな形で使って頂いています。既にいる先生の仕事を奪うわけではなくて、あくまでも、元の形は崩さずに、対応しづらい診療科、専門外の部分を、+αとしてバックアップするような仕組みであると、ご理解して頂いています。導入することによって、患者が高齢化している介護施設でも総合的な医療を提供できるようになるということに、嘱託医にもメリットを感じて頂いていると思います。

ー現在の相談数と、相談受け入れ体制はどのくらいで回しているのですか。

現在、夜間の契約施設が80強ぐらいです。夜の相談件数は1日平均すると6〜7件くらいです。日中は皮膚科の相談が一番多いので、皮膚科は常時4名張り付います。夜に関しては、まず一次受けを看護師さんにしてもらって、必要あらばドクターのほうにコールが行く形にしています。現在、導入施設が増えてるので、一晩で3人は付ききりになっています。夜間はチャット+写真だけではなく、必要に応じてテレビ電話も使っています。

ー介護施設〜病院間の連携で工夫していることなどありましたら教えてください。

病院に転送するときだけではなく、日中も夜間も、相談があったものは、必ず詳細なレポートを介護施設にお送りをしています。医療者が見ても、バッチリ分かるようなレポートにしているつもりです。ですので、それを持って病院に救急受診したところ、すごく情報連携がスムーズにいったという事例が、かなりあります。これは介護施設からの救急搬送の場面でも役立つのではないかと考えています。今は、施設と病院でデジタル情報連携ができていないので、とりあえず救急車に施設担当者が付き添って病状説明をする、というオペレーションになっています。将来的には、急性期病院にオンラインでレポートを送ることで、十分な医療情報を提供し、施設救急搬送の質を上げていくことが重要ですね。介護施設から病院へのアクセスを、どんどん良くし、施設側のスタッフの負荷も軽減できるようにできたらいいなと思っています。

COVID-19の影響、今後の展望

ーCOVID-19で病院紹介も双方配慮が必要になっていると思います。最近の動きで、何か変化などありましたか?

病院に連れていくこと自体が新型コロナの感染リスクになっています。今まではまずは嘱託医に聞いて、嘱託医が「通院してください」という返答が多かったのですが、今は嘱託医の先生も「取りあえずドクターメイトに聞いてみて、通院が必要ないんだったらそれで対応しよう」ということが増えていますね。

ーこの事業を始めての気づき、今後の展望などを教えてください。

総じて思うのは、高齢化をしてる中で、介護施設に入ってくる入居者さんの医療需要は、明らかに高まっていると思います。ただ、それを受け止める介護施設の医療体制・制度が追いついていないと感じます。例えば嘱託医は基本1人しか駄目であるとか、往診も基本的には、そんなに頻回で入っちゃいけませんとか、ありますよね。それによって、介護施設側も困ってるし、病院側も「医療的な処置がちゃんとできる施設はどこなの?、どこに退院させればいいの?」と思っています。

最近、弊社への相談からデータが蓄積されてきて、介護施設で日中に困る事、夜間に困る事等が分かってきたので、それを生かして、介護施設の医療レベルの底上げみたいなものをやって行きたいです。ただ、医療側の意識も「介護の医療需要が高まってるから、じゃあ、俺、介護の医療やるわ」みたいな医師って、まだ少ないですよね。介護は介護、医療は医療みたいな意識はあって、双方のことが分かるようになるのには、正直かなり時間がかかると思います。

ですので、現実的には、適切な時に適切な医療にアクセスできる体制とか仕組みを整えた方が、介護側・医療側・患者と家族の悩みの解決に直結するなっていうのを痛感してます。我々は、単なる受診や相談の代替サービスというよりは、医療需要が高まる中での連携の仕組みになりたいと思っています。「なんでわざわざ嫌がるナースを自前の施設で囲って、オンコール受けてたんだろう?これ使えばもっとシンプルに良くできるじゃん!」みたいな、みんなが幸せになるサービスを作っていきたいと思っています。

ー本日は、貴重なお話をありがとうございました。