京都府立医科大学救急医療学教室
2009年京都府立医科大学医学部医学科卒。同大学附属病院救急部にて研修を行い救急専門医を取得。同教室博士課程入学後、トロント大学小児臨床薬理学教室での研修並びに京都大学大学院社会健康医学系博士課程国内留学を通して主に救急・蘇生に関する研究を行う。またEmergency Medicine Allianceのコアメンバーとしても活動し、COVID-19のアウトブレイク時にはEmergency Medicine Practiceの和訳を行い公開している。2020年にはAmerican Heart Associationから心肺蘇生・集中治療・周術期領域において最も優れた若手研究者1名に贈られるMAX Harry Weil Awardを受賞。2017年度よりInternational Liaison Committee On ResuscitationのSystematic Review Menteeとして、また2020年度よりEIT(Education, Implementation, and Teams)部門のTask Forceメンバーとして国際心肺蘇生ガイドラインのエビデンス集約・骨子作成に寄与している。
reserch map:
https://researchmap.jp/taskmyama/published_papers
Articles:
1. Matsuyama T et al. Impact of Low-Flow Duration on Favorable Neurological Outcomes of Extracorporeal Cardiopulmonary Resuscitation After Out-of-Hospital Cardiac Arrest: A Multicenter Prospective Study. Circulation. 2020 Mar 24;141(12):1031-1033.
2. Matsuyama T et al. Pre-Hospital Administration of Epinephrine in Pediatric Patients With Out-of-Hospital Cardiac Arrest. J Am Coll Cardiol. 2020 Jan 21;75(2):194-204.
3. Matsuyama T et al. Sex-Based Disparities in Receiving Bystander Cardiopulmonary Resuscitation by Location of Cardiac Arrest in Japan. Mayo Clin Proc. 2019 Apr;94(4):577-587.
4. Izawa J. Matsuyama T (among authors). et al. Pre-hospital advanced airway management for adults with out-of-hospital cardiac arrest: nationwide cohort study. BMJ. 2019 Feb 28;364:l430.
5. Kitamura T. Matsuyama T (among authors). et al. Public-Access Defibrillation and Out-of-Hospital Cardiac Arrest in Japan. N Engl J Med. 2016 Oct 27;375(17):1649-1659
福井大学医学部卒業後、同附属病院救急部にて研修。Emergency Medicine Alliance・Japanese Emergency Medicine Networkのコアメンバーとして活動し、JEMNet論文マニュアルを執筆。救急専門医取得後、ハーバード大学公衆衛生大学院修士課程に進学すると同時にマサチューセッツ総合病院救急部にて臨床研究に従事。帰国後は東京大学大学院臨床疫学経済学講座にて研究活動を行い、現在同講座及びTXP Medical社のChief Scientific Officerとしてデータ解析や臨床研究の指導を行っている。
前編では、松山先生に、蘇生領域におけるこれまでの臨床研究の流れから、蘇生領域の研究におけるプレホスピタルデータと院内データの結合したレジストリの必要性などお話しいただきました。今回はその続きのインタビューをお届けします。
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蘇生領域の臨床研究最前線(前編)
蘇生領域の臨床研究最前線(後編)
蘇生の個別化医療に向けて

【松山】各先生方色々なアプローチされていますが、僕も仲間の先生と一緒に色々やっています。先ほど話した通り心停止患者の予後の8割はプレホスで決まって、その中でも心機能が良好かどうかが大事です。そして救急医や集中治療医のところまで勝負を繋げようと思うとCPRの質の話になると思います。そうなると当たり前ですけど実際の心肺蘇生現場で行われているユニバーサルに「5センチから6センチの間を100回から120回の間のテンポで押して」っていうのでいいのか?って話になります。実際救急医だって救急外来で心エコー当てて「この人心臓寝てるね」とか色々いいながらエコーの角度変えてますよね。だからいつまでも同じところ、胸の真ん中押してという、一般市民と同じではいけないんじゃないかって思って、その辺りの研究をしています。それこそgoal directedというか、個々人の血圧がターゲットでもいいしNIRSやEtCO2でも良いんですけど、そういうガイドになるものがあって、蘇生行為に関しても個別化をしたほうが良いんじゃないかっていうのがあります。ここは結構みんな思ってはいるけどなかなか形にできてないところなので、そこに切り込んでいきたいという気持ちはありますね。
【後藤】蘇生でもやっぱり個別化医療?の波が来てるんだね。
【松山】そうなんです。リアルタイムに心肺蘇生行為をフィードバックして、「こういう感じの圧出てますよ」といった指標が出たりとか、その圧があったら予後が変わるのかとか。あるいはアドレナリンが効きますよ効きませんよというよりかは、「この人には聞くんじゃないか」とか。ウツタインなどの大規模レジストリを用いた解析も大事ですけど、もう少しメカニズム的なところにアプローチしたいなと。癌はもちろん敗血症ですらそうなってきてるわけですから。ただ蘇生領域の研究者はみんな個別化蘇生って言ってますけど、実際どうやって行くのが良いのかっていうのは、わからないというか難しいですね。
【後藤】アドレナリンだって個々で反応違うのが当然でしょうしね。実際、大規模データでのアドレナリンはもうテーマとして一段落したのかなという気もするし。
【松山】いやそれが意外とね、最近またシンプル化されてきて笑。アドレナリンは打つなら早く打った方が良いとかいうのも最近分かりましたからね。効くか効かないかでいうと、まあ効くだろうと。ただそのタイミングが早ければ早いほど良いんじゃないかみたいな話がここ数年で出てきています。正直こんな事今頃言うんやという感じでしたけど。
【後藤】うーん、なんか当たり前のような…。
【松山】打つんだったら早く打った方が良いっていうだけの話なんですけどね。ROSCするためには効くんじゃないかって言われてて、特にROSC(注)したけど結局神経学的予後が不良だった患者さんはアドレナリンの投与が遅い傾向にあるんですよね。これはRCT絶対できないと思うので、このまま多分この流れで早期投与が大事ということで終わりだと思うんですけど。
【後藤】そうか、でもどの患者にアドレナリン行くかと言うのはまだ決まってないの?
【松山】そうですね、一応波形でいうと、non-shockableな人は間違いなく早く打った方が良いって言っているというか、それしかやることがないので。例えばVFとかVTやったら除細動ファーストで行くのが大事なのでそれをどれだけ邪魔しないかという問題があって、その辺はちょっと曖昧なんですよね。僕も実は今そこの論文を今書いてます。除細動1回失敗したら2回目すぐ打って、2回目の除細動してアドレナリン打ちなさいというのが今の蘇生プロトコールですけど、そのプロトコールは効果があるのか?というのと、あとはどのタイミングで打ったら良いのか?という点です。日本の場合は全員静脈ルート取らないとだめなので、打つのも遅くなっちゃいがちで、投与タイミングがバラバラになってるんですよ。
【後藤】なるほど…そういう論文は良い雑誌に掲載されそうなんですか?なんか少しインパクトが弱そうな気もするけど。
【松山】ははは…実はまたtime-dependentの話も混ぜていたので、最初結構良いところから出してたんですけど、ことごとく落ちましたね(笑)。
【後藤】(笑)。でも患者の異質性に注目するのが大事というのは変わらないよね。
【松山】そうですね、心停止患者におけるheterogeneityにどう対応していくかというのは世界的にも言われていて、最近になって集中治療におけるpost-cardiac arrest syndrome(PCAS)でも注目されています。今のところ集中治療における蘇生の領域はチェインでいうと最後の方のPCASぐらいしか改善するところないんじゃないかという感じで、今ものすごいICUデータが流行っているんですよね。だからいまだに低体温療法のtrialが出てるわけで。他にもターゲットになる血圧がいくつがいいのかとかそういう研究もEuropean Heart JournalにRCTが出てるんです。でもそれくらいしかRCTないんですよね。
【後藤】ということは、これからどんどん出てきそうね。
【松山】他にも呼吸管理をどうするかっていうのも流行っていて、mild hypercapneaって言ってちょっとだけCO2高かったら、ちょっと血管が拡張されて血流が良くなって良いんじゃないかっていうアイデアがあるんですよね。当然それで脳圧上がりすぎて予後悪くなるんじゃないかって両方言えるのでCO2の管理一つでもRCTを組めるんです。今はニュージーランドのチーム、ANZICSとかが敗血症やりきってPCASに踏み込んできているらしいですね。今まであんまりニュージーランドのチームとか出してこなかったんですけど。
【後藤】じゃあ最近はニュージーランドのチームがその辺かなり出てきるんだ。さすがANZICS強いね。
【松山】CO2のやつはまさにそうでしたね。そんな感じで、蘇生領域における集中治療での研究も個別化医療に向いてます。まあ当たり前すぎたというか、敗血症で心停止になっているのか、外傷でなっているのかって全然違いますもんね。そして、もう一つはアウトカムというか、研究としての課題としては、今までCPCとかいって一応神経学的予後とか、そこまでいったんですけど、QOLとかですね。
【後藤】Patient reported outcome?
【松山】そうです。Circulationとかにも退院後のQOLまで取りなさいよというのがステートメントとして出てますね。
【後藤】なるほど。でもJAAM-OHCAはこの情報取得していないんじゃない?日本はこれどう太刀打ちするの?
【松山】これはまだ最近言われだしたところなので、一応大阪CRITICALでは、QOLまで取ろうという話になってきてます。ちょっと、JAAM-OHCAがもう解散というか、多分そろそろなくなるので。