寄稿:藤森 遼

東京大学医学部在学中。TXP Medical株式会社インターン生。
ScoutyでDjangoを用いたWeb開発、リクルートにてReactNativeを用いたアプリ開発、小田急電鉄とMaaSアプリ開発、DeepEyeVisionにて画像分類器による眼底画像診断支援システムの開発。

この度、インターンでありながら第48回日本救急医学会総会・学術集会(岐阜、2020年11月)のシンポジウム「救急外来における診断エラー」にて「カルテ記載に連動した大動脈解離のリアルタイムアラートシステムの開発」というテーマで発表する機会をいただきました。本研究では機械学習を用いて救急外来における大動脈解離の確率予測モデルを構築し、カルテに入力された各情報がどれだけ予測確率に寄与しているかをカルテ記載と連動して図示化することに成功しています。
※本記事で紹介する内容及びその周辺技術は特許出願中です。

システムの開発の背景

本研究は「救急外来において、指導医のように適切な鑑別診断を考えてくれるAIがあればいいのに」という発想からスタートしています。実際の臨床現場では、病院によっては研修医が事実上救急外来の主力として働いているというケースはよくあることだと思います(特に夜間救急など)。私自身、学生ながら臨床実習などを行った際には「自分が研修医になった時に、知識が豊富で見落としている点を指摘してくれる『指導医』が常にいてほしい」と思っていました。実際の救急外来においては正確な診断も大事ですが、それ以上に見逃しを防ぎたい場所でもあると思います。そこで、「この症例はこの疾患の可能性が高いね」と言われるより「可能性は低いけどこの疾患は鑑別に挙げた?」というような一言が欲しいな、と考えました。

では実際にそのような機能を現場に実装するにはどうしたら良いのか?近年機械学習による研究が盛んになり診断・予測モデルの研究が数多く出版されていますが、多くのモデルは情報が全て揃ったタイミングで最も確率の高い疾患を予測するようなモデルです。これらのモデルは一般的な疾患や典型的な症例に対しては有効なモデルであると思われますが、「確率が低いけど、その時点で見逃してはいけない鑑別疾患の除外をしたかどうか」という指導医の一言を再現するようなモデルではありません。

どのようなシステムが理想的か

そこで見逃しを防ぐために有用なシステムを考えた時に、大事なのは①モデルの正確さ、②リアルタイム性、③どの情報がどれだけ疾患予測に寄与しているか、④どのタイミングで鑑別疾患を提示するか、といった点だと考えました。どのような病態であっても完全に特定の疾患を除外することは不可能ですから、緊急性の高い疾患を全てリストアップするのでは意味がありません。そこでカルテに入力された情報から「ある程度リスクが高くなった」タイミングでアラートを出し、その時に「カルテに入力されたどの情報がそのアラートの根拠となっているのか」を示せれば有用ではないかと考えました。

モデルの作成と開発

そこでまずはTXP Researchに所属する指導医のもとで予測モデルの開発を行いました。モデル作成の対象となった患者は2018年4月から2019年9月に日立総合病院救急外来を受診した患者27,550人で、最終的に大動脈解離と診断された患者をアウトカムとしました。勾配ブースティングモデルを用いて予測モデルの作成を行ったのち、SHAP(SHapley Additive exPlanations)を用いて予測モデルの結果の解釈と図示化を行いました。さらに、このモデルを組み込んだAPIを開発し電子カルテシステムと連携させることで、カルテ記載に連動して予測結果をその解釈とともにアラートとして表示させています。

左側のカルテ記載に連動して、右側にアラートが表示される

救急医学会での発表

今回は診断エラーに関するシンポジウムでの発表でしたが、他のパネリストの発表は実際に病院で起こっている診断エラーに関する話題が多く、初めは毛色の違う発表をしても大丈夫か、臨床経験のない自分がディスカッションに参加することができるか、という不安が大きかったです。しかし実際に発表が終わってみると、講演を聞いていただいた方や、知人からも多くの感想やフィードバックをいただき、さらには他のパネリストからもアイディアをいただくことができました。議論全体の所感としては、機械学習はCTなどの画像診断をはじめ、予後予測、病理診断など医療に応用され始めてはいますが、シンポジウムの質疑応答やパネリストの反応からは、AIが臨床応用されるのはまだ遠い未来の話でまだそんなに関係ない、と考えている方が多いような印象を受けました。これらのやりとりを行う中で、自分が行なっている研究プロジェクトが社会にインパクトを残すことができるかもしれない、と感じてより研究へのモチベーションとなりました。確かに導入にはハードルが多くあるとは思いますが、AIができることとできないことを十分に把握して、臨床に活用する方法を探り、アイディアを形にしながら、その可能性を開拓していきたいと考えています。