「病院前救急活動支援システム」の開発と実装

ーVientiane Rescue1623への同行調査で見えてきた課題から、どのようなシステムを開発することになったのでしょうか?
 ラオスの交通事故減少に向けて明らかになった課題は3つです。
1. 交通事故情報が記録されておらず分析できない
2. 傷病者の搬送時の記録は紙のまま保存
3. 救急車からの病院に患者搬送に関する情報を迅速正確に伝達する手段がない

これらの解決のために、救急車にスマホを設置して記録業務や病院連絡業務をシステム化することと、データ化したことによって今まで把握できていなかった情報を蓄積し、後日分析ができるようにする必要がありました。そこで、JAGREには有志で集まったシステムの専門家等がいますので、まずはVientiane Rescue1623と組んで、システムのプロトタイプを作り、実証実験を行うことにしました。

ー病院前救急活動支援システムを入れて、具体的に業務がどのように変わったのか教えてください。

1.救急車の位置を測位し、
病院のディスプレイでリアルタイムに救急車位置と患者情報を確認

 国立ミタパープ病院では救急外来の入口正面にディスプレイが設置されていて、スタッフは常に状況を確認できます。ディスプレイ画面左側には救急車の位置を表示、右側には搬送される患者情報が表示されます。患者情報には受傷部位とその重症度が表示されます。重症度に関しては、擦り傷など表層の怪我は黄色、骨折や内臓損傷が疑わし場合には赤で記載されています。救急隊のテキスト入力負荷の軽減を図り、ボランティアスタッフが誰でも簡単に入力できるように配慮しつつ、病院側が知りたい情報を記述してもらうために協議を重ねてこのようになりました。

2.救急隊記録のデータ化とリアルタイム共有:同時に事故状況のデータ蓄積

救急隊情報を入力するタイミングを予め4つに区切り、何を入力するかも決めました。できるだけテキスト入力負荷を下げて、写真を撮ったり、前述の受傷部位と重症度表記はシェーマを色で塗る作業のように、ボランティアの知識のバラつきがあっても入力しやすい工夫をしています。

1
出勤

出発時間(自動記録)、出動するボランティアのID・所属、救急車両の種類、出動目的

2
現場到着(救命活動開始時)

現場写真の撮影、現場の位置情報の緯度経度(自動記録)、到着時間(自動記録)、受傷者の状態・受傷部位と損傷レベル、道路状況や衝突車両の状況とその写真(交通事故の場合のみ)

3
現場出発(病院に到着するまでの移動時間)

受傷者の性別・年齢、重症度レベル、バイタル、交通事故の状況(飲酒の有無や衝突状況等)、搬送先病院※1

4
病院到着

搬送者個人情報、付帯情報

※1搬送先病院を選択すると、病院に自動で入力情報が転送されます。前述のディスプレイ表示だけでなく、患者情報が自動印刷され、病院側の記録としてそのまま活用される仕組みになっています。

ー発展途上国でシステム運用する際のハードルなどはありましたか?
 何よりもハードルは、現地の医療レベル、また刻々と変わるサービスの内容やサービスの提供体制に対応できるような仕組み作りですね。「日本の場合はこうだから」といった対応や伝え方では、現地では通用しません。そもそも救急医療サービスが何かといった概念自体があやふやな地域でもありますので。実際に急病や事故が発生した場合にどのような動線で患者が病院へと搬送されているのか、病院側はどんな情報が欲しいのか、救急隊や医師、看護師はどのようなスキルを持ち合わせているのか、実際に目で見て、聞いたこと、話したことをシステムへと反映させる力、また想像力が必要な作業です。正直興味深くもありますが、根気が要ります。
 また支援プロジェクトが動いている時期が終わった後も、現地でプロジェクトが継続して回っていくことを意識することが大切です。そのためには徹底的なコストダウンと、使いたいという気持ちが芽生えるシステムになっている必要がある訳ですね。だけれど、どれだけコストダウンにするにせよ、使いたいシステムを作るにせよ、WEBアプリ(インターネットブラウザ上で動くシステム)でシステムを作る上で、その運用に伴った個人情報保護やセキュリテイを考えていくことは欠かせませんし、蓄積されたデータについても最終的にはどんな出力を目指すのか、は考えないといけません。はじめて導入される概念、仕組みとなると、どこで疑問や壁を感じているのか含めて、実際に使う現地の方との対話が何よりも大切です。
 テクニカルな点では、エリアによって、通信の電波が届かないことなどがあることです。ですので、オフラインになってもデータが消えないように自動保存になっていて、電波がもう一度繋がったら即時的にそれまでのデータが病院に送られるように工夫しています。

今後の展望

ー今後の展望など教えてください。
 現在は、コロナの影響もあり、現地になかなか渡航できていません。その中でどのようにシステムが現地で安定して運用される状態にまで至れるか、そのストーリーラインを描くことは簡単でなく、かなり頭を抱えてますね。
 あとは今後の大きな課題としては、日本の119番のような緊急通報番号の1本化です。現在、ラオスの「地球の歩き方」などの日本人向けのガイドを見ていると、緊急通報は1195と書いてあるのですが、掛けても繋がらない状態です。
 現在プロトタイプのシステムとしてVientiane Rescue1623と基幹病院で運用しているシステムを、全ての救急隊や大きな病院との間で繋げて、国として初めてとなる統合指令センター含む指揮管理センターを作る、その際に緊急通報番号の1本化も図るといった計画があります。来年の早い段階でこうした取り組みについても始めていければと考えています。

ー本日は大変貴重なお話をありがとうございました。

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