緩和ケアの先達

【大内】こういう救急外来における緩和領域の研究は日本でもアメリカでもあんまやってる人いないんだけど、一人僕の10年先を行ってる人がいる女性研究者がいるんですよ。彼女はPatient-Centered Outcomes Research Institute(PCORI)っていう米国の機関から研究費を貰っていて、cluster RCTや救急外来でのstep wedge pragmatic trialをやっています。彼女は12 million(10億円超)規模の研究費も取っている凄い研究者です。
【後藤】なんか色々桁違いで…step wedge pragmatic trialとは?
【大内】Randomizationの単位が時間で逐次的なcrossover trialですね。僕は全然MPHで習わなかったんですけど。今は普通の患者単位のrandomizationとか、cluster randomizationの人気が減って(?)きてて。例えば機械学習の人気がちょっと前に上がってたみたいに、今step wedge pragmatic trialが流行ってきてるみたいです。普通のRCTはbest ideal conditionじゃないですか。そうじゃなくて、もっと現実に近い形でテストしたらもっといいんじゃない、みたいな感じの波があって、それが流行始めたのが多分5年前ぐらいですかね。僕もここまで行けたら楽しいなって思ってるんです。
【後藤】確かにそこまで行けばおもしろいでしょうね。
【大内】本当にその結果に対して医療変わるでしょうからね。ネガティブでも変わると思う。やっぱ救急は緩和するべきじゃなかったんだ、みたいなことになったりとか。
【後藤】なるほど。そういえばこの前日本の先生方と一緒に活動されていましたよね。

日本の先生達との取り組み

【大内】それに関しては…まずSusanがDana Faberの緩和ケアのchairを引退したあと、その後継にJamesという人が来て、彼が作り上げてきたvital talkというコミュニケーションスキルを教えるNPOがあるんです(COVID患者診察におけるvital talkの例)。このvital talkは20年くらい前からあって、トレーニングを受けた人が世界中で1万人を超えています。僕みたいなfacultyも500人以上いるんです。そこで日本の先生方と緩和の話をした時にvital talkを日本に持っていこうという話になって。でもその中で問題が出てきて、「アメリカのコミュニケーショントレーニングを日本でやる?」みたいな。日本は医療が違うんだよって日本の人が言うじゃないですか
【後藤】言います。僕も絶対言うと思います、それ笑。
【大内】だから、それをempiricに変えていこうって話になりました。まずvital talkを日本語訳したものを用いた研究を日本でやってみたんです。臨床経験が卒後3年〜25年ぐらいの24名の医師を対象に質的研究して、日本の医療者はvital talkのトレーニングに対してどう思ったか、みたいな論文を今書いています。まずはあるものを経験してもらってどこを変えていったらいいかというのをどんどん変えていって日本流にしていくみたいなうことを日本の先生方とやってます。
【後藤】高齢化社会におけるadvanced care planningの重要性が認識されている中で非常に重要な取り組みだと思います。話が変わりますが、先生は振り返ってみてSusanとかとの出会いって大事だったと思いますか?

メンターの存在とオリジナリティの確立

【大内】もちろん。だって今話したアイディアは自分一人で生み出したアイディアでは全然ないですからね。頭いい人と話をしていく中で、どうしたらいいのか何回も何回も考えてこういうアイディアになったわけで。レジデント終わったばっかりの時は、何をどうしたらいいのかわからないっていう状態だったから、出会いがなかったら全然できなかったですね。周りに頭いい人がいっぱいいるから、その人達をうまく使えばいいんだと思いました。その人たちに良い質問をすると向こうからも結構的を得たアドバイスみたいなのをもらえて、それで自分の中を作っていけばいいんだなって。
【後藤】なるほど。じゃあ先生の中で研究のメンターはSusanと今のチェアのJamesでしょうか。やっぱ彼らの名前とか業績とかが自分の研究に大きく影響したなと思うことはありますか?
【大内】もう受け売りで情けないっていう感じですね。でもみんな救急医じゃないから、救急では僕しかこのトピックをしていない。それが唯一違うとこですかね。
【後藤】僕も留学中はボスの名前があって、彼らのデータと英知を借りれたから論文出せたけど、じゃあ日本に帰ったらってなるとデータがないし、彼らとは一応離れたことになるわけじゃないですか。そうなるとやっぱりそこから急に一人立ちって結構難しいわけですよね、現実問題。
【大内】難しいですよね。しかも後藤先生がいたところがまた特殊なところで、ファンディングもデータもあって、やりたい放題じゃないですか。それからいきなり新しいところで一人で、ファンディングもなくて人もいないって言われると、それはきついっすよね。
【後藤】でも日本から研究しに留学しようっていう時はあまりそういうこと考えてないですよね。帰国後どうするの?自分でその恵まれた環境作るの?って。
【大内】ほとんどの人は考えてないと思うし、みんなちょっとゆっくりしに来てる部分もあるかもね笑。僕の場合は、メンターのやってることを誰も救急でやってないからSusanやJamesがやったことを全部救急に持ってきたら全部新しい論文になるからおいしいっちゃあおいしい。君は自分のアイディアがないのかって言われると、確かにあんまないな。でも少しずつ救急医しか書けないような論文を書いてきている。だからそういう意味でSusanやJamesにも「ケイ(大内先生)がいて良かった」って言ってもらえてる。
【後藤】お互い足りなかったとこ補えてるわけですから。本当にいい感じのイノベーションですよね、それきっと。
【大内】そう。そんな感じです。
【後藤】久しぶりに色々とお話ができて楽しかったです。また進捗あったらぜひ教えてください。ありがとうございました。

▼前編記事はこちら
1 2