対談:大内 啓(Kei ouchi, MD MPH)

Assistant Professor of Emergency Medicine, Brigham and Women’s Hospital
大阪府生まれ。12歳で渡米し、2009年ジョージタウン大学医学部卒業。マンハッタン郊外のLong Island Jewish Medical Centerにて、救急医学科/内科の二重専門医認定レジデンシ―を2014年に修了(全米で年23人限定)。その後Brigham and Women’s HospitalのHealth Policy Research Fellowship(2016年)とDana-Farber Cancer InstituteのPsychosocial Oncology and Palliative Care Research Fellowship(2018年)を経て現職。2016年ハーバード大学公衆衛生大学院卒。Paul B. Beeson Emerging Leaders Career Development Award in Aging (National Institute on Aging)などを受賞。

論文実績
1. Ouchi K. et al. Managing Code Status Conversations for Seriously Ill Older Adults in Respiratory Failure. Ann Emerg Med. 2020 Jul 31;S0196-0644(20)30410-8
2. Ouchi K. et al. Goals-of-Care Conversations for Older Adults With Serious Illness in the Emergency Department: Challenges and Opportunities. Ann Emerg Med. 2019 08; 74(2):276-284.
3. Levine DM, Ouchi K. et al.Hospital-Level Care at Home for Acutely Ill Adults: A Randomized Controlled Trial. Ann Intern Med 2020 Jan 21;172(2):77-85.
4. Landry A, Ouchi K. Story of human connection. Emerg Med J. 2020 Aug; 37(8):526

インタビュアー:後藤 匡啓(MD, MPH, PhD)

福井大学医学部卒業後、同附属病院救急部にて研修。Emergency Medicine Alliance・Japanese Emergency Medicine Networkのコアメンバーとして活動し、JEMNet論文マニュアルを執筆。救急専門医取得後、ハーバード大学公衆衛生大学院修士課程に進学すると同時にマサチューセッツ総合病院救急部にて臨床研究に従事。帰国後は東京大学大学院臨床疫学経済学講座にて研究活動を行い、現在同講座及びTXP Medical社のChief Scientific Officerとしてデータ解析や臨床研究の指導を行っている。
Twitter: https://twitter.com/GtoDr

本稿は「救急医とGoal of Care(前編)」の続きです。

COVID前後で変わった事

大内啓先生

【大内】ここまでは普段の救急外来の話だけど、今回COVIDが発生して色々変わったんだよね。COVIDの時って患者さん以外は家族の人とか誰も救急に入れないことが問題になって。
【後藤】日本でも入院したら会えないことが大きな問題になっていました。
【大内】そう、だからみんな電話で会話してたわけだけど、実はこれまでやってた研究って電話でもうまくいくんじゃないかと思って、今はそちらの方向で取り組むことも考えてる。あとは回復する見込みが高いなら急性期のしんどい時じゃなくて入院後落ち着いてからでもいいんじゃないかなとも思って。
【後藤】いいですね。時世に合わせた方向性も大事ですし、バーチャルでもいい、みたいな時代が来てると思います。

【大内】僕の夢としては急性期の会話を救急医が全員同じようなやり方でできるようにしたいんです。例えば挿管はみんな同じようなやり方で行いますよね。そういう風に急性期の会話をある程度統一された方向性でやれるようになったらいいな、というのが最初の目標。次の目標が「私にあった医療はこうなんだよ」といった意思表示を患者さんと作って、それが全部電子カルテに記載されて次の急性期の治療に生かされるということです。

なぜ救急医がやる必要があるのか

【後藤】なるほど。それは本当に素晴らしいし、実際の救急現場での悩みが大きく減りますね。一つ聞きたいのですが、たとえば先生は救急外来にadvanced care planningが必要な人が来て、「あなたに合った治療を決めよう」という会話のきっかけを作るわけじゃないですか。それは確かに救急外来が一番取り掛かりやすいところだと思うんですけど、その部分は別に救急医がやらなくてもよくないですか?わざわざ救急医がやることに意味はあるんでしょうか?
【大内】そうなんですよね。だから難しいんですけど、まずかかりつけ医はあまり積極的にやってないんですよね。
【後藤】でも普段見ているのはかかりつけの先生方ですよね。
【大内】もちろんちゃんと患者さんと話し合う先生もいるんだけど、救急外来で患者さんの話を聞く限りほとんどの人は今後再度急性増悪した時にどうするかっていうadvanced care planningを作っていない。後藤先生も救急外来の患者さんでadvanced care planningが明確な人そんなに見ますか?なぜかというと、まず医者は時間がない。そして病気がたくさんある人たちでも外来に来てる時はある程度安定していてうまくいってる時だから、あえてそのタイミングでadvanced care planningをしようという話にならない
【後藤】言われてみれば確かに。
【大内】だからそういう時に「ちょっと心配なんですけど」って言っても、先生今退院したばっかですごく調子いいんですけど…みたいな感じになっちゃってやりにくいんだと思います。だから急性期がteachable momentなんですよ。しかも救急外来で対応してくれた医者にすごい心配ですって言われると、インパクトがあるんですよね。ただこれ、確かに医者じゃなくてもいいかもしれない。でも最終的に医者もどこかでそのプロセスに入っていかないといけない。だからそのきっかけを救急医が作るのが一番患者さんにとって受け入れやすいんじゃないかと。
【後藤】たしかに最終的には医者がいないといけないですよね。最初の重大決断する時ですからね。
【大内】そうそう。医師抜きで看護師や他の医療者単独で行うと患者さんって「でも先生は何て言ってんの?」みたいな話になっちゃう。だから、医者にはadvanced care planningのどの部分に一番必要とされるのか?というのを検討中です。

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