救急外来でのインフォームドコンセントに介入は可能なのか

【大内】色々勉強した今だと、Susanならどういうふうにこの会話を持っていくのか?と考えるようになりましたね。彼女はコミュニケーションマスターだから本当にすごいんだけど、でもそのSusanのやり方をどうやったら救急医全員が出来るようになるのかって。でもそれって色々なやり方があって、まずは言葉。話す言葉をガイドにしてチェックリストで書いていくっていうやり方をSusanはやっていて、「あんた出来ないんだから、これを棒読みしてください」みたいな感じでやるやり方。先生はAtul Gawandeっていう人知ってます?
【後藤】すみません、無知で…。
【大内】AmazonとJ.P.Morganがヘルスケアカンパニーを作って、そこのCEOに選ばれた人なんですけど、彼はWHOの外科チェックリストを作った人です。手術の時に「はい、手術するのは右の肺ですね。執刀者はこの人ですね」みたいな。タイムアウトのチェックリストみたいなやつです。Atul Gawandeはこの外科のチェックリストを世界に広めたあと、Susanに「会話のチェックリストを作ってくれ」って依頼したんですよね。そこでSusanが作った会話チェックリストがあって、それを救急の場に持ってこようかっていう話をしてました。

【後藤】さっき出てきたような「挿管しますか?」とか現状を患者さんと家族にお伝えする時ですよね。非常に気を遣う場面の。
【大内】そう、そこで会話&decision making。もう挿管するかしないかのdecision makingっていうのがすごく大事だなと思って、それをよくするためにどうしたらいいか考えて論文を書いたりとか人に教えたりとか、そういうのを色々やってる。Susanのおかげで自分のコミュニケーションスキルは結構高くなってきたんですけど、それをアメリカの救急全体に届けるにはどうしたらいいかっていうことをまず最初の大きな課題として設けています。でもこれ研究するのって結構難しいんですよね。
【後藤】そうですよね、実際問題。最終的にはチェックリストを使ったRCTとかになるんでしょうけど…最初の観察研究ステップが全然思いつかないです。
【大内】そう。まずこういった会話がいつ行われてるかって、その場にいないとわかんなくて、しかもいつ起こるかとか分かんないし、場合によっては夜2時とかだったりするわけ。
【後藤】深夜つらい時ですね…研究とかどうでもいいからさっさと結論出したい笑
【大内】そうなんです。しかも現場にいても「じゃあ今このチェックリスト使って」とかいうのを焦ってる救急医って聞かないじゃん?笑。だから介入研究としても難しいし、どれぐらいの頻度で行われてるかもはっきり言ってデータはない。NEAR(米国の救急外来における挿管レジストリ)とかああいうのにも載ってないからさ。
【後藤】確かにそういった部分の情報はないですね。僕たちがやってる日本版のJEAN(日本の救急外来における挿管レジストリ)でもその情報はないです。
【大内】だからその辺をもう少し研究したくても難しいと。誰かは24時間救急にいないといけないし、保険請求データでは当然取れないし、みたいな。だからまずは医師教育でやってるんですよね。

救急外来はGoal of Careへの介入のチャンス

【大内】これからお年寄りの人が今からどんどん増えていく中で治らない病気になってる人の数がどんどん増えてくわけじゃないですか。その中でも癌とか脳卒中とか本当に人生変わるじゃないですか。その人たちが急性期に救急に来るけど、その日に死なない人ばっかりだからか、その人たちの大体85%から90%、advanced care planningが全くされていないという研究(注4)が出ています。

Medicareのそういう人達は救急に来る頻度って凄く高いんです。報告では75%が死ぬ6カ月前に一度は救急に来てるんですよね(注5)
【後藤】そんなにですか?と思ったけど、確かにそれぐらいの感覚値かもしれないです。


【大内】救急外来で毎日患者さんに会ってて思うのは、自分たちの病気の現状を十分知らない人が本当に多いってこと。例えば5回目の心不全の増悪で来た人に「心不全って増悪するたびにさらに悪化してるって知ってますか?」って聞くと、向こうは「え?そのうち治るんじゃないの」みたいな話になってきて、「いや、治らないんですよ」みたいな。
【後藤】正直救急外来で診るときにそういう話は全然しないですね…主治医にお任せと言うか。正直そこに触れちゃうと、継続して診察・治療をしない僕たちは責任が負えないって思っちゃいます。。患者さんのためにはなっていないとは思うんですけども。
【大内】でもこの部分、救急外来が本当によくするチャンスだと思うんです。「次どうなるか心配なんです。今後どうするかあなたの主治医と相談したことありますか?」って聞くと、「え?全然ない」っていう人が多いです。そこで「これからまた同様の事があると思うので、あなたに対してどういう医療が一番合ってるかを考えるってすごく大事なことだと思うんです。そういうことを考えるの手伝ってもいいですか?」って聞くとみんな「もちろん!なんでそんなことを誰もしゃべってくれなかったんだ?」って話になるわけなんです。別にその日は全然死ぬことはなくてむしろ治療したら十分にコミュニケーションが取れる。そこでその人たちとadvanced care planningを組み立てて、その人たちがこういう医療はしてほしくないっていうのを明確にすることに大きなインパクトがあると思うんですよね。今はそのための介入研究プロトコルを作っていて、その介入のfeasibilityをR03(注6)でやって、今K-AWARD(注7)でランダム化比較試験まで持ってこうというところですね。

(続く)


(注4)Oulton J, Rhodes SM, Howe C, Fain MJ, Mohler MJ. Advance directives for older adults in the emergency department: a systematic review. J Palliat Med. 2015;18(6):500-5.
(注5)Smith AK, McCarthy E, Weber E, Cenzer IS, Boscardin J, Fisher J, Covinsky K. Half of older Americans seen in emergency department in last month of life; most admitted to hospital, and many die there. Health Aff (Millwood). 2012;31(6):1277-85.
(注6)米国の研究費
(注7)米国の研究費

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