適切な統計解析手法を用いることの大切さ

【後藤】当時僕はまだ研修医〜専攻医ぐらいだったから「新しい方が信頼できるのかな」くらいの気持ちでいたけどね笑
【松山】当時はみんな(conventionalな)propensity score matchingをやっていて、それでええやんみたいな雰囲気でした。でも心停止患者に対して心肺蘇生を行う際は心拍再開が得にくい症例ほど治療が行われやすいですし(蘇生時間バイアス)、実際の蘇生現場においては刻々と判断が変わるので時間軸を無視しての解析は好ましくないことが多いですよね。そこで数年前に時間依存性交絡に関してメンバーが話をして、蘇生領域だったらtime-dependent propensity score matchingとかを使ったらええんちゃうかって話になって(注4)
【後藤】以前先生の論文の共著に入った先生と少し話をしたんだけど、immortal time bias(注5)や先生らが行なった研究に対してmarginal structural modelや古典的なlandmark法ではうまく対応できないって言ってたような。しかも先生達は従来のtime-dependentじゃなくてよりvalidな方法にするために従来の方法を改良しているんだっけ?だから宜保先生と小向先生の統計家二人が入って証明しないといけなかったって聞いたけど。
【松山】そうです。正確には時間依存性傾向スコア連続マッチング(time-dependent propensity score sequential matching)ですかね。だからその辺まで評価された上で、良い結果が出たので僕たちのチームからBMJに論文が出た感じです。Time-dependent PS matchingは蘇生領域にピッタリの解析というか、蘇生領域において時間依存性交絡をちゃんと考えたモデルとconventionalなPS matchingをやった時とでは反対の結果が出ることが多いんです。でも時間依存性交絡をちゃんと考えると結果的に大規模ランダム化比較試験とconsistentな結果が出るんですよね。結局キレイに解析をしたら意味はあるというか、手法を正しく使うのは大事なんだなって。しかもデータベースがきれいなのもあって。だからその波に乗ったのが僕のJACCの論文って感じですね。
【後藤】なるほどね。

【松山】というのが最近の蘇生領域研究のひとつですかね。で、最近は救急学会主導のJAAM-OHCAっていうレジストリがあって。これは院内を巻き込んだデータベースなので、ECPRとかそういう研究ができそうですね。JAAM-OHCAはもう3万5千件ぐらいあって、世界有数のデータベースになったので、しばらくはここから論文出せるんちゃうかなと。
【後藤】それは確かに論文たくさん出そうね。
【松山】いや…まあ…出るはずなんですけど、5年ぐらい経ったけど今のところ、皆やるって言いつつ書いてないというのが実情ですかね…。救急集中治療の先生方は基本現場にいらっしゃるから、時間が取れなかったりして、中々論文までいかないというのが多いみたいで。
【後藤】レジストリ研究では結局一部の人が沢山書くというのはよくある話だけど、実際仕事量や家庭の事情などで書ける人書けない人いるだろうし難しいですね。先生は書く権利あるんだっけ?
【松山】僕もあります。その研究ではtime-dependentを使おうとかそういうのを考えずにシンプルな解析をして、メッセージ性をどう出すかという感じです。あんまりこねくり回してもあれなので。
【後藤】臨床雑誌ではあんまり複雑なことというかテクニカルな事はやらんほうが良いよねホント。複雑な解析するってことはそうしないといけないクリニカルクエスチョンだからデータに合っていない事も多いし。もちろん必要な時は必要だから適切に使うのが大事だけど。じゃあレジストリという視点から見ると今日本の蘇生はウツタインとJAAM-OHCAがメインでいっている感じ?あとはSOS-KANTOやOSAKA-CRITICALなどのregional dataか(注6)。SOS-KANTOからもたくさん論文出てるよね。

(注4)各時間単位における治療確率を考慮したモデル
(注5)治療を受けるまで患者さんは死なないというバイアス
(注6)関東地方・関西地方で行われている蘇生領域のレジストリ

プレホスピタルデータと院内データの結合

【松山】やっぱり蘇生の領域ってプレホスピタルのデータがないときついんですよ。社会復帰出来る人の8割はプレホスでROSCするんです(注7)。先生も経験あると思いますが、正直、心肺停止で運ばれても病院レベルでは何もできることがない、みたいな時あるじゃないですか。そんな感じで、やっぱり院外心肺停止においてはプレホスのデータがないと何もできないんです。だから研究における今後の方針を言うなら、ウツタインとかのデータをどうやって他のデータとリンクさせていくか、になるのでJAAM-OHCAにつながるんです。例えば集中治療のJIPAD(注8)とかも、JIPADだけで蘇生の研究しようと思うとデータが足りないです。もちろんJIPADの本来の目的は研究用じゃないっていうのは承知の上ですけど。

【後藤】そうなるよね当然ね。データの統合っていうのはある意味みんなの夢みたいなところがあるしね。ちょっと聞きたいんだけど、JAAM-OHCAは一応プレホスのデータと院内データあるけどそれじゃ足りないっていうこと?
【松山】JAAM-OHCAは救急外来までのデータがほとんどなんですよ。その後どういう管理されたかという情報はそこまでなくて、24時間後の血液ガスだけは入ってるんですけど。あとはTTMのターゲットが何度にしたかとかぐらいはあるんですけど。
【後藤】まあデータ取る労力もあるからなかなか難しい。
【松山】だから、ここでさらにJIPADとかと繋げたら、まあすごい縦断的なデータベースになると思うんですけど。それは難しいんですよね、なかなか…
【後藤】まあ日本の弱いところと言うか…なるほどね。JIPADも全部のデータが入っているわけではないしね。じゃあ今日本の蘇生研究はこれからJAAM-OHCAでちょっと盛り返すと良いなみたいな。
【松山】そうですね。全体でいうとそういう感じですかね。
【後藤】例えばSOS-KANTOとか他のグループはどうなの?
【松山】SOS-KANTOはもう少し細かいデータ取ってますね。例えばNIRS(注9)のデータを入れてくださいとか。だからベースがJAAM-OHCAで、プラスアルファというデータですね。。
【後藤】それだとnoveltyの高い研究できそうだね。色々見れて面白そう。レジストリ以外ではどうなんですか?

(続く)

(注7)Return Of Spontaneous Circulation。心肺停止患者が心拍再開すること。
(注8)Japanese Intensive care PAtient Database。日本 ICU 患者データベース。
(注9)Near-infrared spectroscopy。近赤外分光法を用いて脳血流の酸素化を評価する。

▼関連記事はこちら
蘇生領域の臨床研究最前線(中編)
蘇生領域の臨床研究最前線(後編)

Dr.Gotoの臨床研究コラム

1 2