済生会宇都宮病院では、救命救急センターにてECMO症例を集約し、さらに教育を強化する取り組みとしてVR(バーチャルリアリティ)ツールを活用していく予定です。教育に関する取り組みについて、済生会宇都宮病院救命救急センター救命救急センター長で、日本COVID-19対策ECMOnetの統括ECMOコーディネーターの活動もされている小倉 崇以先生にインタビューしました。

Interview:小倉 崇以

済生会宇都宮病院救命救急センター 救命救急センター長
日本COVID-19対策ECMOnet 統括ECMOコーディネーター
■経歴
東京慈恵会医科大学医学部卒業。済生会宇都宮病院にて初期研修、前橋赤十字病院高度救命救急センター集中治療科・救急科にて後期研修修了。Cambridge University Health Partner, Papworth Hospitalに留学しECMOセンターにて、呼吸ECMOと心臓ECMOを合わせて1年間で100件以上の症例を経験。帰国し、2020年より現職。
■専門医、資格等
日本救急医学会救急科専門医、日本集中治療医学会集中治療専門医、日本呼吸療法医学会呼吸療法専門医、日本外傷学会外傷専門医、日本熱傷学会熱傷専門医、日本航空医療医学会認定指導医、日本DMAT隊員要請研修指導医、インストラクター・プロバイダー等(JATEC/JPTEC、PBEC、ICLS、ACLS/BLS、ABLS、MCLS、ALSO)
■役職等
日本集中治療医学会評議員、災害医療コーディネーター(栃木県、宇都宮市)、栃木県DMAT統括管理者、世界保健機関(WHO)国際緊急援助隊、日本外傷学会評議員 多施設共同臨床研究委員会委員、日本熱傷学会災害ネットワーク検討委員会委員等

ECMOセンターの近況と展望

ー現在の貴院のECMOセンターの状況についてお聞かせください。
 2019年の救命救急センターの立ち上げの段階から、救命救急センターを起点として、ECMO症例の集約化は構想として入っていました。呼吸不全は当然のことながら、必要あれば循環不全の患者も、心臓血管外科や循環器内科と協力しながら集約化する体制を作りました。
 昨年1年間、済生会宇都宮病院のICUでは71例ECMOが稼働しました。隣県の救命救急センターですと、おそらく心臓と呼吸のECMOを合わせて年間30例くらいですので、症例数は多い方だと思います。今年は、COVID-19が発生してしまって、症例数はさらに増えています。ECMOが必要だけれども、間に合わなくて亡くなってしまうということは、絶対にあってはいけません。ハイボリューム症例の管理が可能な病院の体制構築と、人材育成は大切だと思います。

ー間に合わない症例を減らすための取り組みについてお聞かせください。
 そのために立ち上げたのが、ドクターカー「U-CCETT」というチームです(前記事参照)。我々の病院にたどり着く前に亡くなってしまう方がいるのであれば、我々が出向いてECMOを装着して、こちらのECMOセンターに来ていただくというシステムを構築する必要がありました。U-CCETTが、病院の外でパワーを発揮することで、救命できる症例がたくさん生まれると思っています。

ーECMOを扱える人材育成の課題についてお聞かせください。
 僕はケンブリッジ大学に留学しECMOのトレーニングを受けてきました。イギリスのECMOセンターは国営で6施設しかないので症例は集約されています。ハイボリュームセンターであれば、症例は多数経験できて人材も育ちやすいし、データも集まるので研究もできます。良い循環が生まれるんですよね。
 当院では、栃木でそういったモデルケースを作りたいと思っています。ECMOを扱える人材の育成は、やはり、すごく大変です。最低でも40〜50例くらい症例を積まないとECMOの一人前にはなれません。さらに一流になるには、数百こなさなければなりません。ですので、日本のようにECMOをできる施設が分散していて、施設は全国約400あるけれども年間に1例とか2例しかECMO症例が無いという状況では人は育ちません。ECMO症例を集約化することで、地域の医療インフラの拠点というだけでなく、教育の拠点としても機能する施設にしていく必要があると思っています。
 日本でも、COVID-19を契機にECMOが注目されました。今回のCOVID-19が特別だったわけではなく、インフルエンザでも同じこと起こりますので、ECMOセンターが必要なインフラであるということを、国・行政・地域の皆さまにも認知してほしいなと思っています。

VRを利用したECMOシュミレーション教育 

ーVR教育はのような流れでできたのでしょうか?
 COVID-19に関連して「日本COVID-19対策ECMOnet・日本呼吸療法医学会・厚生労働省ECMOチーム等養成研修事業」の予算がつきました。僕は、日本COVID-19対策ECMOnetの統括ECMOコーディネーターをやっていて、呼吸ECMOを扱える医療者を増やす研修プログラムを作る必要がありました。前述のとおり、ECMO教育はある程度、手間がかかるし、短い時間で達成できるものではないですが、シミュレーション教育は、一定の効果があるといわれています。しかし、シミュレーション教育の場合、人を集めて、密集環境となるため、この時代の中では、なかなかできません。
 そこで、ECMOnetでVR(バーチャルリアリティー)を使った教育をしようということになりました。逆境に立たされた時にこそ、打開するアイデアと、イノベーティブなツールの活用が必要だと思っています。

実際のVR教材の映像(2D写真化したもの)

ーVR教育の利点と課題について教えてください。
 VRの利点は、まずインパクトが全然違います。同じ映像を見るのであっても、VRで3D画像で見るのと既存の2D画像は全く違います。ドクターの視点に立って見たり、そこから他の職種を見たりできます。チームパフォーマンスを高める意味では、360度、どの職種が何をやっているのかが分かるのは、教育法としては抜群です。2D画像だと、映っている場所のみにフォーカスしているので、他の人が何をやってるかは分かりません。ECMOのように症例が少ない手技の教育ツールとしては、VRで疑似体験できることは価値が高いと思います。
 課題は、VR画像を使った場合の教える側の技術です。正直、今回作った教材をインストラクターがどういう風に使いこなすべきか、まだ定まっていません。僕自身も、感覚としては半分くらいしか答えにたどり着いていないと思います。受講した人のフィードバックをもらって、感触を確かめて、インストラクター教育も確立していく必要があると思います。

ー貴院のECMOセンターでもVRは教育ツールとして活用しているのでしょうか?
 今回、「日本COVID-19対策ECMOnet・日本呼吸療法医学会・厚生労働省ECMOチーム等養成研修事業」にて作った教材は、厚労省で受講対象が決められているので、当院で活用することはできません。ですので、独自で同様のVR教材を作って、今年の10月から院内の教育ツールとして活用していく予定です。ECMOセンターで実際の症例を集約化しつつ、補助的にVR教材も利用していくつもりです。

ー本日は、貴重なお話をありがとうございました。