済生会宇都宮病院では、今年10月1日より全国初となるcritical care と ECMO transportができる超大型ドクターカーの運用開始を予定しています。まさに現在取り組み中の立ち上げ準備について、済生会宇都宮病院救命救急センター救命救急センター長小倉崇以先生にインタビューしました。

Interview:小倉崇以

済生会宇都宮病院救命救急センター 救命救急センター長
■経歴
東京慈恵会医科大学医学部卒業。済生会宇都宮病院にて初期研修、前橋赤十字病院高度救命救急センター集中治療科・救急科にて後期研修修了。Cambridge University Health Partner, Papworth Hospitalに留学しECMOセンターにて、呼吸ECMOと心臓ECMOを合わせて1年間で100件以上の症例を経験。帰国し、2020年より現職。
■専門医、資格等
日本救急医学会救急科専門医、日本集中治療医学会集中治療専門医、日本呼吸療法医学会呼吸療法専門医、日本外傷学会外傷専門医、日本熱傷学会熱傷専門医、日本航空医療医学会認定指導医、日本DMAT隊員要請研修指導医、インストラクター・プロバイダー等(JATEC/JPTEC、PBEC、ICLS、ACLS/BLS、ABLS、MCLS、ALSO)
■役職等
日本集中治療医学会評議員、災害医療コーディネーター(栃木県、宇都宮市)、栃木県DMAT統括管理者、世界保健機関(WHO)国際緊急援助隊、日本外傷学会評議員 多施設共同臨床研究委員会委員、日本熱傷学会災害ネットワーク検討委員会委員等

ドクターカーのコンセプト

ー10月より立ち上げるドクターカーのコンセプトと特徴について教えてください。
 “Utsunomiya Critical Care & ECMO Transport Team”の略で「U-CCETT」(ユーセット)と呼んでいます。ドクターカーといっても、高規格救急車タイプで重症患者搬送もできる仕様です。現場にECMOを入れにいって、その状態で安定させて搬送できる設備を搭載していて、全国初の取り組みです。当然、ECMO導入に伴った手術等もできるような設計になっています。
 カバーエリアは50kmと広範囲です。メディカルコントロール協議会の担当範囲が、実は車で40分ぐらいかかる所もあります。重症外傷や心肺停止の患者さんが発生した時に、ラピッドカーによるドクターとナースのディスパッチシステムだと限界があります。ですので、僕らはその現場で手術や人工心肺を装着できる「動く救命救急センター」のようなものを作りたいと思いました。

(左)U-CCETTのロゴが入ったポロシャツ。
(右)済生会宇都宮病院の理念(なでしこマーク)のもと、思いやりのある(ピンク)安全で質の高い(ゴールド)医療を提供(赤)し、地域社会(とちまるくん・ミヤリー)に貢献し続けていきたいという思いを車両デザインで表現。

ーECMOを移動式で出来るようにするという構想はいつ頃からあったのでしょうか?
 2019年5月から救命救急センターを立ち上げるために地元宇都宮に帰ってきたのですが、入職前に、病院に救命救急センターのビジョンを伝えていて、当初の構想から入っています。新しくできる救命救急センターでは「救急車をたくさん応需する、ICUもやる、ICUでなくても地域で困った症例は病棟で管理できるように入院診療部もやる、ドクターカーもやる」と言って、病院とすり合わせを重ね、それをできるように僕が10人医師を集めてきて、僕を含めて11人体制で救命救急センターをスタートさせました。
 救命救急センターの立ち上げ時から、ドクターカーをやると言ってましたが、通常のドクターカーで現場に出ても、行って帰って来て、40〜50分くらい平気で過ぎてしまいます。なので、「動く救命救急センター」が必要だと考えました。ニーズディペンデントで、地域のニーズに即したコンセプトを作り、それを実現させるための車両設計、稼働させるシステム構築、人材のリクルート、全て行って現在に至ります。

ークルマはどのような仕様なのでしょうか?
 いすゞ自動車のエルフという車両を改造したトライハートをさらに改造しました。まず、手術台のようなストレッチャーをイギリスから輸入して、その上に患者さんが寝ると4点でライトが当たるので無影灯のようになり、両サイドに立って患者さんの処置ができます。ですので、術者が患者さんの左側に立って、助手が患者さんの右側に立っていて、麻酔担当がヘッドポジションに立てるので、まさに手術室なんですよね。手術室がそこにあって、たまたまタイヤが付いてるので動きます、みたいな形に仕上げたかった。
 すごく電力を使う医療機器をいっぱい積み込んだとしても電源が落ちるということはないように、バッテリーも通常の4倍も付いています。しかも、メインバッテリーとサブバッテリーがあるので、走っていればバッテリーはどんどん供給されるし、停まっていてもサブバッテリーが作動するので、基本的に電源が落ちるということはありません。

立ち上げプロセス

ー救命救急センターの立ち上げ時にドクターを10人も集めるのは大変だったと思います。
 U-CCETTも含めてチームをつくるためにエキスパートが必要でした。「我こそは」というビジョンを持って共感してくれる医師に集まっていただいて、今、チームでそれをやり遂げようとしている最中です。一番すごいのは、僕自身が36歳で、その下にいる人間が35歳、33歳。近しい年代でやる気に満ちた若者が集まってくれたということが、一番宝物かなと思っています。

ードクターカー立ち上げ準備で大変だったことは何ですか?
 昨年より1年かけて準備をして、消防、宇都宮市、栃木県、医師会とも、交渉・調整をして、認可が降りたのが今年の8月です。交渉においては、今まで誰かがやってきたことを奪ってしまうのではなく、任せるところはお任せして、市民目線で考えて「ここが足りない」という点に対して、ドクターカーシステムとしてサポートできる部分をつくっていきました。その交渉・調整と、実効性の検証がシビアだったけれども、やはり根気強くやって認可が降りました

ードクターは経験のある医師をリクルートできたそうですが、ナースは元々いらっしゃった方に教育をしていったのでしょうか?
 ドクターへの教育は、僕と、ドクターカー担当官の藤田健亮先生、ECMOセンター長萩原祥弘先生の3人が核になって、恐らく教育をしていくだろうというところは最初から見えてました。しかし、ナースが誰もプレホスピタルの医療に関しては経験がなかったので、勉強会を開いたりしました。
 プラスでやったことは、前橋赤十字病院が元々ドクターカーをやっているので、教育をお願いして、学んで帰って来てもらうという取り組みをしています。元々、僕らは隣県の救命救急センターなど他施設を見て学ぶことも大事だと思っていて、救急専門医の後期研修プログラムでも、敢えて積極的に外に出て、勉強してもらう機会を作っています。そういった流れの中で、今回初めてナースの受け入れもお願いすることができました。本当は、立ち上げのナース6人全員をお願いする予定だったのですが、新型コロナ感染症の影響で、人の移動が制限されてしまって、立ち上げ前に、何とか1人は送り込むことができたという形です。

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