寄稿:中村 謙介、小倉健太郎

中村 謙介
日立総合病院救命救急センター 救急集中治療科主任医長/救命救急センター長
■学歴
平成14年東京大学医学部卒業、東京大学医学系研究科大学院外科学専攻救急医学講座卒業。
■職歴
東京大学付属病院にて皮膚科研修医を経て、救急部集中治療部医員。福島県太田西ノ内病院にて内科勤務。東京大学付属病院救急部集中治療部 助教。平成24年より現職。
■資格など
日本集中治療医学会専門医、日本救急医学会専門医、日本救急医学会指導医、日本内科学会総合内科専門医、急性血液浄化学会認定指導者、日本呼吸療法医学会専門医。筑波大学臨床准教授、琉球大学非常勤講師、法政大学非常勤講師。

小倉 健太郎
東京大学医学部在学中。TXP Medical株式会社リサーチチームインターン生。

研究背景

TXP Medical Research Teamでは、救急外来データシステムNEXT Stage ER(NSER)を利用したデータベースを用いて研究開発・臨床研究を行っています。今回はIntensive Care Medicine 誌から出版されたPersistent-Inflammation Immunosuppression and Catabolism Syndrome (PIICS)におけるCRP値に関する論文の紹介です。

1st authorコメント

集中治療の領域は生死を超えてPICS (Post Intensive Care Syndrome)をアウトカムに考えるべくパラダイムシフトしています。日立総合病院救命救急センターはPICS対策に全力をあげて立ち向かい臨床/教育/研究を行っていますが、免疫面のPICSとも言えるPIICSをも解析し今後のPIICS研究の土台を作っていきたいと考えています。(中村謙介)

論文概要

C-reactive protein clustering to clarify persistent inflammation, immunosuppression and catabolism syndrome

Intensive Care Med. 2020 Mar;46(3):437-443.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/31919541/

本研究の目的

医学の向上により救命率が改善し、集中治療領域でも短期生存を超えた長期予後や機能障害、すなわちpost-intensive care syndromeに関心が向けられるようになっています。PICSは主に身体、認知、精神機能の障害に対して用いられる概念となっていますが、重症患者の免疫面での後遺症を炎症遷延、免疫不全、異化亢進で特徴付けPersistent-Inflammation Immunosuppression and Catabolism Syndrome PIICSとする提案がなされています。PIICSにはCRPを重要因子においた診断基準が提唱され、臨床においてPIICSをとらえるのに有用です。しかしこの基準にエビデンスはなく、また提唱では「PIICS: ICU入室後14日目のCRP>0.15mg/dl」と現実的なものではないため、炎症遷延の推移を加味したPIICSに適切なCRPのカットオフを定める必要がありました。そこでICU入室患者のCRP推移を機械学習によりクラスタリングし、PIICS該当患者に特徴的なCRP推移を検討しました。

対象と方法

本研究では, 2015年5月15日から2019年6月10日の間に日立総合病院のICUに入院した患者を対象とし, Next Stage ER・ICUデータベースを通して取得したデータ(年齢, 性別などの基本情報, 入退院に関するデータ, バイタルサイン, 時系列血液検査データ、標準化された臨床プロブレムリスト)を用いた. 組入基準として1) CRPの実データが2つ以上の日付で取得されており, かつ2)14日以上の長期入院をしている患者を対象とした. さらにその中からCRPの値が入院初日から7日間の間で最大になる日をデータの起点とした際にそこから14日以上入院した患者を取り扱った. 結果として539名の患者が本研究の対象となった. 

CRPの14日間の推移(対象患者のCRP値を線形補間し, 初日から7日間で最大になる日をデータの起点としてそこから14日分のCRP推移データ)を, K-means法により35クラスに分割した(第一のクラス分類). 35クラスは分類するクラス数を1から大きくした場合に各クラスに含まれるデータ数が2以上を保てる限界のクラス数である. またK-means法において各データ間の距離として行列のユークリッド距離を採用したため, クラスの数が少なすぎるとCRP推移の特徴が埋もれてしまう. そのため, 第一のクラス分類ではある程度細かく分類する必要性があった. 次に35クラスに分けたものを、以下の4つのクラスに分類した.
・Class1: CRPが常に1.0程度の低い値を遷移
・Class2: CRPが常に10以上の高い値を遷移
・Class3: CRPの初めの値が10以上であり、セカンドヒットを持つ
・Class4: CRPの初めの値が10未満であり、セカンドヒットを持つ

上述の4クラスに分類できなかった残りの180名に関して, 再度K-means法によるクラス分類を行った. 分類クラス数は前述と同様の手法で決定し, 3クラスに決まった. これにより, 本研究で用いたCRPの推移データを合計7つのクラスに分類した.

結果と考察

研究期間中に5513名の患者が対象となり、そのうち4974名が除外された. 最終的に研究対象となった患者におけるCRP推移は下記の7クラスに分類された(図1)。

(1)CRPが1.5mg/dl 程度の低い値を推移する(n=69)
(2)CRPが10mg/dl程度以上の高い値を推移する(n=129)
(3)入院初期に10mg/dl以上の高い値を取りつつも単調的に減少して1.5mg/dl程度に早く収束する(n=58)
(4)入院初期に10mg/dl以上の高い値を取りつつも単調的に減少して1.5mg/dl程度に遅く収束する(n=41)
(5)入院初期に10mg/dl以上の高い値を取りつつも単調的に減少して3.0mg/dl程度に収束する(n=81)
(6)入院初期に10mg/dl以上の高い値を取り、数日で5mg/dl程度まで低下するものの再び7, 8mg/dl程度まで上昇する(CRPのセカンドヒット)(n=96)
(7)入院初期は5, 6mg/dl程度の中程度の値を取り, 数日で3mg/dlを下回る程に減少するものの, 再び7, 8mg/dl程度まで上昇する(n=65)

図1. 各クラスにおけるCRPの推移

これらクラスごとのCRP推移から, PIICS患者では入院14日目のCRP値が3.0mg/dlをこえており, 非PIICS患者では大きく下回っていることから、ここをapplicableなPIICSのカットオフとして提唱した.

今後の展望

本研究により、PIICSの基準として「ICU入室14日以上入室しCRP>3.0mg/dl, Alb<3.0g/dl, Lym<800/μl」と定義すると適切と考えられました。このような定義が確立すれば実臨床でPIICSを簡便にとらえることができ、実臨床でPIICSに立ち向かうと同時にPIICSへの介入の研究をさらに推し進めることができ、本研究をふまえたさらなる臨床研究を検討しています。

参考文献

  1. Kahn JM, Le T, Angus DC et al (2015) The epidemiology of chronic critical illness in the United States. Crit Care Med 43(2):282–287
  2. Stortz JA, Mira JC, Raymond SL et al (2018) Benchmarking clinical outcomes and the immunocatabolic phenotype of chronic critical illness after sepsis in surgical intensive care unit patients. J Trauma Acute Care Surg 84(2):342–349
  3. Gentile LF, Cuenca AG, Efron PA et al (2012) Persistent inflammation and immunosuppression: a common syndrome and new horizon for surgical intensive care. J Trauma Acute Care Surg 72(6):1491–1501
  4. Mira JC, Gentile LF, Mathias BJ et al (2017) Sepsis pathophysiology, chronic critical illness, and persistent inflammation-immunosuppression and catabolism syndrome. Crit Care Med 45(2):253–262
  5. Hawkins RB, Raymond SL, Stortz JA et al (2018) Chronic critical illness and the persistent inflammation, immunosuppression, and catabolism syndrome. Front Immunol 9:1511
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  7. Black S, Kushner I, Samols D (2004) C-reactive Protein. J Biol Chem 279(47):48487–48490

Marnell L, Mold C, Du Clos TW (2005) C-reactive protein: ligands, recep- tors and role in inflammation. Clin Immunol 117(2):104–111